飲むと胃がムカムカするんだけど頑張って飲むわ。
それは違うよ!
胃腸を壊してまで飲んでよい漢方薬はないよ。
でもよく効くらしいのよ…
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
漢方治療において何より大事にしないといけない体の部位それは、
『胃腸』です!
意外と感じる人も多いかもしれません!
でも…まずは胃腸です!(もちろん他の臓も大事ですが)
今回は「なぜ胃腸が大事なのか?」について解説していこうかと思います。
- ずっと体調が悪い
- 胃腸の調子が悪い
- 漢方薬を飲むと胃がもたれる
胃腸の重要性
漢方治療において胃腸がなぜ重要なのかというと、
- 生命活動に必要なエネルギーや物を作る
- 食べたものが一番最初の入ってくるところ(消化吸収)
細かい中医学の説明を取っ払うと上記の2つが非常に大事です。
まずは①
中医学での胃腸を管理するのは脾(ひ)。
脾は飲食物から生命活動に必要なエネルギーを作る場所で弱くなると栄養が回らなくなり体は虚していきます。
そして②
胃腸は食べたもの消化吸収する場所。
お薬(漢方薬を含む)が一番最初に入ってくる場所です。
胃腸にトラブルがあるということは治療のスタート地点で転んでしまうのと同じこと。
胃腸が元気がないと消化吸収の低下、全身に栄養が行き届かなくなります。
もともとの胃腸の弱さがなくても薬や食事で負担がかかれば同じことです。
- よく噛まない
- 食べ過ぎる
- 胃腸に負担のある薬・食事
上記の様に胃腸に負担をかければ消化吸収を邪魔して栄養・エネルギー不足の原因を作ります。
漢方の先生が口を酸っぱく『食べ過ぎるな』『よく噛め』というのはこのような背景があります。
漢方薬で胃腸に負担かけちゃうと栄養・エネルギー不足になっちゃうこともあるのね!
脾胃(≒胃腸)とは?
詳しい機能を見ていきましょう!
中医学や漢方治療の世界では胃腸の働きをする場所を「脾(ひ)」と称します。
この脾は西洋医学の脾臓とはちょっと違うので間違えないようにしましょう。
脾と胃は表裏の関係なのでまとめて「脾胃」と称することもあります。
詳しくは脾と胃は別々です。
ざっくり説明すると
【脾】
- 五臓の一つ
- 小腸で吸収した栄養から生命活動に必要なものを作る
- 血が脈外に漏れないように統制する
- 上向きのベクトル
【胃】
- 六腑の1つ
- 食べ物を受け取る
- 消化し小腸に送る
- 下向きのベクトル
このように脾胃の働きは西洋医学の胃腸に『近い』働きをしています。
胃の働きは西洋とほぼ同じですが「脾」の作用が中医学では特徴的になります。
胃と違い中医学の脾は実体のない臓で機能だけ存在しています。
「胃⇒小腸(栄養とカスにわける)⇒脾(エネルギーをつくる」
この流れは脾によって管理されています。
消化器系(膵臓や肝臓などもふくむ)全般を脾が統括していると考えられています。
脾は別名:倉廩(そうりん)の官と呼ばれています。
倉廩とは米蔵、食料倉庫のこと。
脾(≒胃腸を含む消化器官)は飲食物を受け入れエネルギーを作る食料倉庫の管理人です。
消化器系以外の働きもしています。
小腸は本来『心』の管轄なんですが上記の流れがあるので脾で管轄されてるとも考えられています。
胃は受納と腐熟をする
胃は食べた飲食物を受け取り(受納)、胃液による初歩的な消化(腐熟)をして小腸に送るのが主な仕事です。
胃は全体的に『降』下向きのベクトルに働く器官です。
- 胃は食べたものを受け取る(↓)
- 消化し小腸に送る(↓)
だから「胃は降を以って順となす」とも言われるよ。
この作用がスムーズでないと胃の不快感が生まれます。
脾の性質は「昇」
胃に対して脾は「昇」上向きのベクトルの臓です。
【脾は昇清を主る】
「昇」は脾気が上昇する運動を「清」は飲食物から作った水穀の精微(栄養物質)を表しています。
昇清には2つの働きがあり
- 作った栄養を肺に持ち上げる(↑)
- その他にも内臓が下垂しないように持ち上げる(↑)
という上向きのベクトルで働きをしています。
そのため脾が弱ると
- 胃下垂
- 子宮脱
- 脱肛
- 下痢
- 疲れるとめまい
など下向きのベクトルの症状が起こりやすくなります。
そのため「脾は昇をもって健全とする」と言われます。
脾は生命活動に必要な栄養素を後天的にを作る臓
この部分が西洋医学の胃腸と1番違う所です。
人間が成長や活動していくためのエネルギーには2種類あり
- 両親から受け継いだもの
- 飲食物から作られるもの
①は腎が②脾が担当しています。
このことから「①腎は先天の本」「②脾胃は後天の本」といわれています。
両親から受け継いだ先天的なエネルギーが少ない人でも脾胃をしっかり保てば後天的にエネルギーをためていくことができると考えられています。
脾胃が弱くなると
胃腸障害
胃には受納(じゅのう)と腐熟(ふじゅく)、脾は消化器官を統括という重要な役割があります。
これが何らかの原因で低下してしまうと
- げっぷ
- 食欲不振
- 吐き気
- 下痢
この様な胃腸障害が現れます。
胃は腐熟をする場所なので弱ると消化不良が起こります。
コンビニやスーパーのお惣菜には「防腐剤」がたくさん入っています。
たまにならOKですが、頻度が多いと胃の腐熟を邪魔して消化不良の原因になるので注意しましょう。
疲れやすくなる
前述のとおり脾胃はエネルギーを作る工場の様な役割です。
脾胃が弱ると生命活動に必要エネルギーが作られなくなります。
すると各種の虚が現れ様々な体調不良が現れます。
この症状は脾気虚と呼ばれることが多いです。
症状によって四君子湯や補中益気湯などを使い分けます。
痩せる(不健康的に!)
脾胃が弱ると体は痩せます!
「脾胃は肌肉(きにく)を主る」とされます。
肌肉とは筋肉と意味があります。
※肝が管轄している「筋」とは筋(すじ)っぽいところや機能の意味があります。
脾胃が弱る≒肌肉(筋肉)が弱る
筋トレをしている人は脾胃を大切に!
上記の様に脾胃が弱ると筋肉は弱ります。
筋トレをして筋肉を増やしたい人は脾胃(≒胃腸)を大事にしましょう!
脾胃(≒胃腸)が弱いと…「食欲→消化→吸収」この過程が全て低下。
筋トレの頑張りが無駄になってしまいます。
タンパク質過多は腸内細菌のバランスが乱れます。
食事はバランスよく!過食にならない!
出血傾向
【脾は統血を主る】
脾は血が経脈中を循環できるように制御し、脈外に漏れないよう調節しています。
胃腸に負担をかけ脾が弱ると運化作用(飲食物から気血津液を作る)が低下。
気の固摂作用が低下し出血傾向になります。
- 不正出血
- 鼻血
- 内出血
高頻度が起こる場合は脾が弱っているかもしれません。
胃腸を大事にしましょうね。
体に不要なベタベタ(痰飲)ができる
『脾は生痰の臓』
『肺は貯痰の臓』
などと言われます。
痰とは体に悪影響な不要なベタベタ。
病理産物です。
風邪の時にでる痰も中医学ではあくまで痰の一種。
他には見えない部分で頭痛やメンタル、胃腸障害の原因になっています。
脾が弱ったり、脾の能力以上に油物や甘いものを食べると痰が出来てしまいます。
気になる人はチェックしてみましょう。
【美味しい茶色い食べ物にご注意】
外食やコンビニ食などが多くなると【美味しい茶色い食べ物】が増えます。
茶色い食べ物とは具体的に
- とんかつ、唐揚げ
- カレーライス
- ステーキ、ハンバーグ
美味しく、手軽な反面、ハイカロリーで痰飲がたまる原因になります。
脾胃(≒胃腸)への負担も大きくなります。
「食べるな」とは言いませんが、食べるなら他の色の食材と一緒に食べましょう。
茶色一色の食事にはご注意を。
症状は口にでやすい
脾胃の症状は口や口唇に出やすいです。
五行説で脾胃は、
- 五竅(その臓が元気だと正常に働く感覚器官)⇒口
- 五華(その臓が元気だと鮮やかな物)⇒口唇
この様にされています。
飲食物が口から入り栄養になるまでは脾に統括されています。
そのため脾胃が弱ると口や口唇の症状が出やすいです。
具体的には、
- 味覚障害
- 口内炎
- 口が粘る
- 口唇の荒れ
この様な症状が出やすくなります。
病んだときに変化がある分泌液を【五液】といいます。
脾胃が弱ると分泌されるのは涎(よだれ)とされます。
- サラサラした唾液は涎(よだれ)で脾が主る
- ネバネバした唾液は唾(つば)で腎が主る
とされます。
赤ちゃんや小さい子供が涎ダラダラなのは脾胃が未発達だからです。
大人でも寝てる時に涎が垂れてる人などは脾胃が弱っているサインかも知れませんよ。
脾胃(胃腸)を正常に保つには?
食べ過ぎない(特に冷たいもの)
食べ過ぎると脾胃は消耗していきます。
「食べ過ぎ」は脾胃から見たら「仕事のし過ぎ」と同じです。
それと同じです。
常に食べている→脾胃に休みがない
こういうことになります。
きちんと脾胃の休み時間を設けるようにしましょう!
特に現代の日本はコンビニ、ファストフードなどいつでも簡単に食べ物が手に入ります。
江戸時代などでは夕方7時は夕食をすませ朝食は朝の7時くらいだったとされています。
この間約12時間はちょっとした『プチ断食=胃腸を休ませておく時間』だったんです。
この「食べない時間=胃腸のお休み時間」はとても大事です。
当然よね!
ちなみに…
英語の朝食は「breakfast(ブレックファースト)」と言います。
これは、「break」(壊す、崩す、破る)という単語と「fast」(断食、絶食)という単語の組み合わせ。
※断食をファスティングともいいますね。
断食を壊すからbreakfast
夕食と朝食までの間は断食期間ということになります。
そして脾胃は冷えを好まないので冷たい物の食べ過ぎ注意です!
脾胃が冷えると機能が低下し消化吸収が上手くいかなくなります。
中国では食事の前に温かいスープやお茶を飲みます。
これは脾胃を温めることで機能を高め食事を美味しく食べる習慣です。
脾胃が弱い人は飲まないようにしましょうね!
よく噛む
とても大事です!
よく噛むことは…
- 胃腸の優しい
- 過食の予防(満腹中枢を刺激する)
- 誰でもできる
- お金がかからない
コスパ最強の養生です。
噛むことでしっかり唾液が出ます。
唾液には消化作用や胃腸の粘膜を保護する作用があるとされます。
「しっかり噛む」これだけでも胃腸の不具合が治ることもあります。
何かしながら食べたら噛む回数が減りますよ!
甘いものは適量
五味のうち脾胃に属するのは『甘』
適切な甘味は脾胃を元気にする効果があります。
疲れると甘いものが食べたくなりませんか?
これは疲労で消耗した気血を補うためと考えることもできます。
ここで「適切な甘味」と表現したのは2つの意味があり
- 量→食べ過ぎると逆効果
- 質→精製された砂糖などではなく自然の甘さ
脾は湿気を嫌う臓です。
過度な甘みは体の水はけを悪くして脾に不要な湿気をたまります。
すると脾の機能も低下しせっかく食べた甘味が台無しになってしまいます。
もし食べ過ぎてしまった場合は陳皮(ミカン皮)や紫蘇(しそ)などの気を動かし、湿を去る生薬を上手に使いましょう。
砂糖の強烈な甘さは補に働くよりも湿を生む傾向にあります。
※もちろん量による
ここでいう『甘』は果物や穀物の自然の甘さのことを指します。
特に脾の色が黄色なので
- かぼちゃ⇒補中 益気 化痰
- サツマイモ⇒補中 益気 和胃 通便
- 栗(クリ)⇒益胃 健脾
などはおすすめです。
考えすぎない
脾の感情は『思(考える)』です。
思則気結「思えばすなわち気結す」と言われ考えすぎると気のめぐりが停滞します。
気がめぐらないと脾胃の機能は低下して、
- お腹の張り
- 食欲不振
- 下痢
この様な症状が出る可能性があります。
って考え過ぎると食欲が無くなるのがわかりやすいかな?
まとめ
胃腸(脾胃)は健康の土台です。
どこが悪くても胃腸が悪ければ胃腸を治さないと治療の効果は半減します。
胃腸の重要性・機能を簡単にまとめると
【脾胃の重要性】
- 生命活動に必要な栄養を作る
- 消化吸収を主る
【脾胃が弱ると】
- 胃腸障害
- 疲れやすくなる
- 筋肉が落ちる
- 出血傾向
- 症状は口に出やすい
【胃腸を正常に保つため】
- 食べ過ぎない(特に冷たいもの)
- よく噛む(食べることに集中)
- 甘いものは適量に
- 考えすぎない
最初にも言った通り胃腸を壊してまで漢方薬を飲むのは長期的にはマイナスになることもあるんだよ!
気をつけなきゃね!
胃腸の働きは自律神経が大きく関わっています。
- 交感神経(興奮など)→胃腸の動きは停滞
- 副交感神経(リラックスなど)→胃腸の動きは活発
胃腸の調子を改善、補気の漢方薬を服用したらリラックス、休息して副交感神経を優勢にしないと効果が薄まります。