それなら補中益気湯を試してみても良いかもね!
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
現代人はお疲れですよね?
疲れやすく、胃腸が乱れやすい現代では「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という漢方薬が活躍します。
応用範囲が広くとても使いやすい処方ですが、どんな症状も取り除くわけではありません!
漢方薬局に勤めていると「とりあえず補中益気湯!」というように使われているの見かけます。
便利な処方ですが、どんな症状にも良いわけではありません。
そして、使い方を理解すればより効果的に使用できますよ!
そこで、今回は補気剤の代表「補中益気湯」を解説していきます!
- 体が疲れている
- 胃腸が弱い
- 補中益気湯の効き目を実感できていない
補中益気湯ってどんな漢方薬>
簡単に説明すると
胃腸を整え、疲れに有効な漢方薬で補気薬の代表的な存在です。
補中益気湯は中焦(脾胃)を補うという意味で名付けられたとされます。
補気の代表的な方剤として「医王湯」という別名があります。
出典は中国の金、元時代の四大家の一人名医「李東垣」の『内外傷弁惑論』及び『脾胃論』です。
この李東垣先生は「補土派」「温補派」と呼ばれ特に胃腸を重視した名医です。
胃腸を重視した李東垣の処方でも一番有名な処方がこの「補中益気湯」です。
なぜ「補土派」と言われるかというと五行説で『土』は脾(≒胃腸)に属します。
その胃腸を重視するから「補土派」と呼ばれています。
出典の内外傷弁惑論には、
人の基本が胃の気であるというのは、食べ物から得た気でいきているからである。
しかし、飲食の節度を失うと脾胃に障害を受け体調を崩す。
これはカゼのような症状とよく似るが、脾 胃の内傷とは治療法が違い、熱を去るような治療をするとさらに脾胃が弱る。
脾胃の弱りには甘温の剤で気を補って陽気を昇らせ、甘寒の薬味で陰火を瀉すと治る。
「内経」には「労はこれを温める」「損はこれを益す」といわれている。
脾胃の内傷による大熱には温める方剤がよい、これに苦寒の薬で胃を瀉してはならない。
それで補中益湯をつくりました。
超意訳&要約
このように書かれています。
この「大熱」を「気虚発熱」といい疲れると起こる熱を指します。
カゼの発熱と似ていますが体が虚して起こっているので、苦寒の熱を去るような漢方薬を使うと脾胃がさらに弱り逆効果です。
そのようなときに使う漢方薬が補中益気湯とされています。
現代では主に胃腸不調、疲労を中心に使われています。
カゼがこじれて小柴胡湯を使う状態よりも、さらに体が虚しているときに使う!という先生もいらっしゃります。
構成生薬
生薬名 | 効能 |
---|---|
☆黄耆 | 補気、益気←体を元気にする 昇発←効能を上部に |
人参 白朮 炙甘草 | 健脾益気←黄耆の作用を補助する |
陳皮 | 利気←補気だけだと滞る。予防的に。 |
柴胡 | 利気、昇発を強める |
升麻 | 昇発を強める |
当帰 | 補血←補気を強める |
※☆の黄耆が君薬(メインの生薬)
メインの生薬は黄耆。
黄耆は体表面の気を補います。
これに対して人参は内側の気を補います。
この2つが両方入った処方は気を補う作用が高く「人耆剤」といわれます。
特徴的なのは「柴胡、升麻、黄耆」の昇発作用です。
これらの生薬たちのを構成する補中益気湯は上向きの漢方薬といわれ、虚証の痔や脱肛、胃下垂や子宮下垂など内臓が本来の位置に留めておけない状態に使う処方とされます。(適応外)
※「中気下陥」といいます
補中益気湯は四君子湯(-茯苓)という脾胃(≒胃腸)を元気にする処方がベースで作られたされます。
ただ、四君子湯には茯苓が含まれますが、補中益気湯には含まれません。
これは茯苓が下向きの生薬だからだと言われています。
詳しくは下記で説明します。
当帰が入ることで補血にも働き、陳皮で気が滞らないように工夫されています。
このため、補気がメインの漢方薬ですがあらゆる症状に応用されいます。
メーカーによっては白朮→蒼朮
蒼朮には益気作用はなく、体の不要な湿気を取り除くのに適しています。
個人的には補中益気湯には白朮だと思っています。
補中益気湯をよく使う症状
体力虚弱で,元気がなく,胃腸のはたらきが衰えて,疲れやすいものの次
の諸症:虚弱体質,疲労倦怠,病後・術後の衰弱,食欲不振,ねあせ,感冒厚生労働省 薬局製剤指針より引用
疲れ全般
- 病後の体力回復
- 慢性疲労
- 食欲不振
この様な症状にはオススメです。
少量の補血薬(当帰)が含まれるため、術後や産後などにも使いやすく、応用範囲を広くしています。
胃腸の働きが弱い
補中益気湯は四君子湯をベースに作られた処方なので脾胃(≒胃腸)の働きを高める効果があります。
消化不良や食欲不振などの方は検討してみましょう。
特に、慢性の下痢や胃下垂などの胃腸の動きが下に偏った向きをした症状には有効です。
【応用】
補中益気湯は腸の動きが悪い便秘に使います。
これは大腸の蠕動運動が低下して起こる便秘。
要は押し出す力の不足状態です。
特徴としては、
- 排便後の疲労感
- 便意はあるが時間がかかる
- 腹部の苦痛は少ない
術後や産後の便秘に使うことあり。
麻子仁丸などの優しい便秘薬と併用するとよいです。
夕方からでる疲れ
気虚の人は夕方や1日の後半は気が不足してきます。
そうすると上部(頭部)に気(エネルギー)の巡りにが悪くなります。
夕方の時間から疲れを感じたり、ボーっとしたりします。
補中益気湯は「補気+昇発作用」で上部にエネルギーを持ち上げるとされています。
疲れると(夕方)ボーっとする人にはピッタリです。
虚弱体質
胃腸虚弱の改善に応用します。
特に子供は脾(胃腸)が未発達で食べ物を上手く消化吸収ができません。
胃腸は飲食物から後天的にエネルギーを作る大事な臓器です。
そのため虚弱体質の子供には脾(胃腸)を強くするため、長期で補中益気湯を服用する場合があります。
未熟児などでも補中益気湯が推奨される場合があります。
未熟児などは本来「腎虚」と考え六味丸が推奨されます。
ただ六味丸は脾(≒胃腸)に負担がかかる場合があります。
胃腸が弱くなればさらに消化吸収が低下して栄養不足になっていしまい逆効果です。
そんな時は補中益気湯などの「脾虚」の漢方薬を検討します。
六味丸は小児の為に作られた処方です。
補中益気湯が合わないタイプ
逆流性食道炎など
補中益気湯は気を上に引き上げる漢方薬です。
同じ胃腸の不具合でも
- げっぷが多い
- 口が苦い
- 呑酸が上がってくる
上記のような胃の気が逆流しているような症状には向かない傾向にあります。
具体的には「逆流性食道炎」のような症状。
これらの症状に六君子湯や半夏瀉心湯などの半夏が入った処方が適します。
半夏は気を下に降ろす生薬で升麻や柴胡とは逆向きに働きます。
特に炎症症状がある場合は黄連、黄芩といった清熱剤を含む半夏瀉心湯が適しています。
太っている(痰濁タイプ)
ダメ!っというわけではありませんが、このタイプには個人的にはおススメしません。
痰濁は重だるいという症状が疲れに酷似しています。
誤って補う漢方を処方すると逆効果のパターンもあります。
もちろん痰濁タイプにも疲れてるいる人はいますが、その場合は痰濁を去る生薬を含む「六君子湯」が適していると思います。
高血圧の人
人参、黄耆は血圧が上がる人がいます。
いくら疲れがあっても高血圧の人が服用する場合は注意しましょう。
補中益気湯を飲んでも養生しないと意味ない
補う漢方薬全般にいえますが、薬だけに頼らないようにしましょう。
補中益気湯は「補気剤+補血+理気」とバランスの良い構成になっています。
継続していくと疲れの改善に繋がります。
ただ、食べすぎたり、睡眠不足など不摂生をしたら効果は半減します。
- 消化の良い食事を心がける
- 10分でも早く寝る
- 過労にならないスケジューリング
必ず養生とワンセットで考えましょう。
まとめ
補剤の王様と称されるだけあり応用範囲の広くとても便利な処方です。
簡単にまとめると
【適した症状】
- 病後の体力回復
- 慢性疲労
- 食欲不振
- 疲れるとボーっとする
- その他疲労時に出る不具合
- 虚弱体質
【適さない症状】
- 逆流性食道炎の様な症状
- 太っている(痰濁タイプ)
- 高血圧