胃腸の漢方薬

中医学視点でわかる「吐き気の原因とタイプ別の特徴」|胃の不調・ストレス・食べ過ぎまで解説

みなさん、こんにちは。
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。

吐き気や嘔吐は、誰にでも起こり得る身近な不調です。
胃腸炎、食べ過ぎ、ストレス、つわりなど状況はさまざまですが、中医学では症状の背景にある「何が原因で起きているのか?」を重視しします。

今回は、中医学の視点で「悪心・嘔吐」の仕組みをわかりやすく解説し、タイプごとによく使われる漢方薬も紹介します。

玄先生
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  • 胃腸の調子が悪い
  • 胃薬が手放せない
  • 心身の不調がある

中医学における悪心(吐き気)とは

中医学では、吐き気の状態を以下のように細かく分類します。

  • 悪心:吐き気はあるが吐けない(嘔気とも呼ばれる)
  • 乾嘔:吐くものはないが「オエッ」となる。唾液だけ出ることも
  • 嘔吐:実際に吐くものがある、音も出る

これらは何かの原因で、本来下向き働く胃の機能(胃気の昇降)が乱れているときに起こります。

どんな時に起こるのか?」を考えることで、ストレスで気が滞っているのか、消化不良が悪いのかなどを判断する手がかりになります。

生姜は古くから「嘔家の聖薬」と呼ばれるほど、吐き気の改善に重宝されてきました。つわりで使われる小半夏加茯苓湯にも生姜が含まれています。

玄先生
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「つわり」に関しても以下のタイプに概ね分けることができます。
ただし、妊娠中は注意が必要な漢方薬もあります。
「つわり」が辛い人は参考程度にして、きちんと専門家に相談しましょう。

胃寒(いかん)|胃が冷えて働きが弱るタイプ

冷たい飲食物や漢方薬で胃が冷えて起こる胃寒について漢方的に解説した画像

胃寒とは、文字通り「胃が冷えてしまった状態」です。
体質的に冷えやすい人や、慢性的な疲労で陽気が不足している人に多くみられます。また、冷たい飲み物・生ものの摂り過ぎでも胃が冷えて働きが落ちます。

胃は本来、食べ物を温めて消化する臓器なので、冷えると内臓機能が低下し、吐き気や痛みにつながります。

症状の特徴

  • 悪心と同時に胃痛が出る
  • 唾液が多く出る(胃の機能低下で水分処理ができない)
  • 温めると改善し、冷やすと増悪
  • 泥状便や軟便が多い
  • 疲労感が強く、食欲不振になりやすい

よく使う漢方薬

  • 人参湯(体質的に陽気不足のタイプ)
  • 安中散(冷たいものの摂り過ぎで胃痛・悪心が出たとき)

② 胃熱(いねつ)|胃に熱がこもり、逆流するタイプ

熱邪や陰虚と水湿の邪気が重なっておこる「湿熱」に関して中医学的な解説をした画像

胃熱は、胃に過剰な「熱」がこもり、胃気が逆流しやすくなることで吐き気や胸焼けが起こるタイプです。
日頃から辛い物・揚げ物・味の濃い料理・アルコールを好む人に多く、湿熱体質とも関係します。

玄先生
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また、夏の暑さが体の内側にこもることで、熱が胃に移り吐き気が出ることもあります。

症状の特徴

  • 悪心、胸やけ、呑酸(すっぱい液が上がってくる)
  • 口臭が強くなる
  • 尿が濃く、便秘しやすい
  • 舌の苔が黄色く、ねばつきやすい
  • のぼせやすく、体に熱感がある

よく使う漢方薬

胃陰虚(いいんきょ)|潤い不足で胃が弱り吐き気が出る

空腹感はあるが、実際は食べれないという特徴の「胃陰虚」について中医学に解説した画像

胃陰虚は、病後や長期間の発熱、手術後などで体の潤い(陰)が不足し、胃が乾いて働きが落ちた状態です。
胃に潤いがないため、食べ物を受け入れる力が弱まり、食欲はあるのに食べると吐き気が出るのが特徴です。

湿熱とは逆で「舌、口は乾燥しているのに、なぜか吐き気がする」という状態は、胃の陰(潤い)の不足を疑います。

玄先生
玄先生
湿熱は黄色いべったりとした舌苔がつくことが多いよ!

症状の特徴

  • 悪心が続く、むかむかする
  • 口の渇きが強い
  • 食欲はあるが、食べようとすると気持ち悪くなる
  • 水を飲みたいが、飲むと吐き気を感じる
  • 舌が赤く、乾燥していることが多い

よく使う漢方薬

  • 麦門冬湯(不足した陰を補い、乾燥を潤す)

肝胃不和(かんいふわ)|ストレス由来の吐き気

ストレスで吐き気、胃痛、食欲不振になる「肝胃不和」について中医学的に解説した画像

ストレス・イライラ・プレッシャーなど「七情(感情)」によって肝の気が乱れ、それが胃の働きを邪魔して吐き気として現れるタイプです。

胃の痛みやむかつきとともに、胸のつかえ、喉のつまり感、生理不順が同時に現れることもあり、現代人に最も多いタイプと言われています。

玄先生
玄先生
毎週、月曜日に胃腸の調子が悪い人は、このタイプの可能性あり!

症状の特徴

  • 悪心、少量の嘔吐
  • 胸が苦しい、喉のつかえ
  • 口が苦い(肝胆の熱が上にのぼる)
  • 乾燥感やイライラが強い
  • ストレスで症状が悪化
  • 生理不順・月経前症状(PMS)を伴うことも

よく使う漢方薬

  • 逍遙散(血を補いながら乱れた気を整える※女性向き)
  • 四逆散(肝の気の滞りをとる)

⑤ 傷食(しょうしょく)|暴飲暴食による胃の気の損傷

傷食は、暴飲暴食や早食いなどで胃に負担がかかったときに起こる吐き気です。胃の気は本来「下向き」に流れるはずですが、食べ過ぎると逆流して「上向き」になり、吐き気・げっぷにつながります。

胃の処理能力を超えたときに起こるため、吐くとスッキリするのが特徴です。

玄先生
玄先生
短期のパターンが多いけど、虚が絡んで「食べれる量が減る→普通量が傷食に!」というパターンもあります!

症状の特徴

  • 悪心、吐き気
  • 腹部膨満感、張り
  • げっぷ(ときに臭い)
  • 吐くと楽になる
  • 食欲が低下、胃が重い

よく使う漢方薬

⑥ 外邪(風寒・暑邪)|風邪(ふうじゃ)や暑さが原因の吐き気

夏に多い鬼の霍乱について解説した画像

俗にいう「胃腸のカゼ」がこのパターン!

外邪とは、外から体に入る影響のことで、風邪(風寒)や夏の暑さ(暑邪)が代表的です。

外邪による嘔吐は、単なる胃の問題ではなく、「邪気が体表から内部に侵入したサイン」と考えます。

玄先生
玄先生
カゼで悪寒・発熱があるときや、夏バテのときに吐き気が出ることがありますよね!

風寒タイプの特徴

  • 嘔吐、悪寒、発熱
  • 頭痛、関節痛がある
  • 冷えや寒気が強い

暑邪タイプの特徴

  • 嘔吐、高熱
  • 胸が苦しい、体が重だるい
  • 食欲が落ちる

よく使う漢方薬

  • 藿香正気散(湿の影響に強い)
  • 小柴胡湯(カゼが少し奥に入り込む。往来寒熱や胸脇苦満)
  • 香蘇散(軽いカゼで胃の不調があるとき)

まとめ

悪心・嘔吐・乾嘔は、一見同じように思えても、さまざまな原因があります。
体質や状況に合った漢方薬を使うことが大切です。

今回の内容を簡単にまとめると!

吐き気は何らかの原因で胃の気が逆流して起こる。

  • 胃寒:冷えで胃の働きが弱り、むかつき・食欲低下が出やすい
  • 胃熱:胃に熱がこもり、吐き気・口の苦さ・のぼせ感が出やすい
  • 胃陰虚:乾燥傾向で少し食べただけで気持ち悪くなりやすい
  • 肝胃不和:ストレスで気が上に滞り、吐き気・つかえ感が起こりやすい
  • 傷食:食べ過ぎで消化が滞り、胃もたれ・吐き気が出る
  • 外邪:胃腸のカゼ。外からやってくる邪気が原因

短期的な吐き気は自然に治ることもありますし、西洋薬と併用しても問題ない場合があります。

しかし、慢性的に続く場合は中医学的な視点で原因を探り、漢方薬・食養生・生活改善を組み合わせることで根本治療につながりますよ!

ABOUT ME
漢方薬剤師 玄
✅資格:国際中医師 | 薬剤師 |健康運動実践指導者 ✅漢方相談歴10年以上✅胃腸を中心とした漢方相談が特徴。✅健康や中医学の情報を『楽しく面白く』発信中。 お気に入りにするとあなたの生活の質がちょっぴり向上するかも!