
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
「最近、食べすぎて胃がもたれる」「つい夜遅くに食事をしてしまう」
そんな経験ありませんか?
ストレスや生活リズムの乱れが続く現代では、食生活の乱れから胃腸の不調を訴える方が増えています。
そんなときに役立つのが、胃腸の調子を整える漢方薬「香砂平胃散(こうしゃへいいさん)」です。
今回は、「ホワイトルナ(タベルナ)」という名前でも知られるこの処方「香砂平胃散(こうしゃへいいさん)」について、漢方薬剤師の視点から詳しく解説していきます。
- 胃腸の調子が悪い
- 胃もたれ、食欲不振がある
- 生理前など食欲が異常になる
香砂平胃散とは?


簡単に説明すると
胃の働きを高める「平胃散(へいいさん)」に、気の巡りを整える生薬を加えて強化した処方です。
消化を助けつつ、ストレスなどによる胃の張りや不快感を改善するのが特徴です。
香砂平胃散のベース「平胃散」との違い
- 平胃散 :食べ過ぎなどで低下した胃の機能を回復させる基本処方
- 香砂平胃散: 平胃散に「香附子(こうぶし)」「縮砂(しゅくしゃ)」などの理気薬を加え、気の滞りによる胃の不快感にも対応
このように、香砂平胃散は「消化+理気」の両面から胃腸をサポートしてくれます。
平胃散がベースの処方は他にもあり
- 平胃散+消導薬(消化を助ける生薬)→加味平胃散:より消化力が強めた処方
- 平胃散+五苓散(利水の漢方薬)→胃苓湯:消化と水分代謝を改善
これらが有名です。
自分の体質や症状によって使い分けましょう。
出典である「万病回春」には、
飲食が多すぎると脾胃を同時に傷つける。そのような『傷食(しょうしょく)』には香砂平胃散が有効
このように書かれています。
つまり、食べすぎて消化不良を起こした状態に用いるとされています。
現代でいえば、食べすぎ・飲みすぎによる「胃もたれ」「胃の鈍痛」「下痢・軟便」などが該当します。
ホワイトルナ(タベルナ)の“過剰な食欲を抑える”は本当?
タベルナ(ホワイトルナ)の公式サイトでは、
「香砂平胃散の作用で、ホルモン変化によって乱れた食欲中枢を正常化し、異常な食欲を抑えていく」
小林製薬HPより引用
と説明されています。
この説明の根拠は、日本の医学者・曲直瀬道三が著した『衆方規矩』の、「宿食消せず、飲食おのずから倍す者を治す。此れ即ち脾胃の傷れなり」という記述からだと考えられます。
この一文には、一般的に次の2つの解釈があります。
1つは、「宿食(食べたものが消化しきれずに残っている状態)があり、食欲が低下しているときに香砂平胃散を用いると、食欲が改善して倍増する」というもの。
もう1つは、「宿食があるにもかかわらず、かえって食欲が旺盛になってしまっている状態を香砂平胃散が治す」という解釈です。
この2つ目の解釈から考えると、香砂平胃散には“過剰な食欲を整える”働きがあるとも考えることができます。
実際、過食傾向のある人の中には「お腹はいっぱいなのに、もっと食べたい」と感じるなど、満腹中枢の働きが乱れているケースも少なくありません。
そのため、香砂平胃散が一定の効果を示すことは期待できますが、あくまで「弱った胃腸の働きを整える漢方薬」ということを覚えて起きましょう。
「食欲異常」に対しては限定的な効能である点を意識しておいたほうが良いと思います。
① 気滞タイプの「ストレス食い」に対応
ストレスなどで「気」が滞ると、食欲が乱れたり過剰になったりします。
香砂平胃散には理気薬(気の巡りを整える生薬)が多く含まれるため、生理前のイライラや緊張による食欲過多には確かに有効です。
ただし、場合によっては加味逍遥散や黄連解毒湯など、より精神面に働く処方のほうが合う人もいます。
② タイプが合わないと逆効果のことも
香砂平胃散は消化を促進する作用が強いため、体質によってはかえって食欲が増進してしまうことがあります。
「消化してくれるから安心」と思ってつい食べすぎてしまうと、逆に胃腸を疲れさせる原因にもなります。
また、中医学では「胃熱」「湿熱」と呼ばれる、胃に湿気や熱をもつタイプも過剰な食欲が出やすいとされます。
このタイプには香砂平胃散は不向きですので注意が必要です。
👉 あくまで“胃腸の助け舟”であり、“食べすぎのお守り”ではない点に注意しましょう。
構成生薬と働き
生薬名 中医学的な効能
| 蒼朮(ソウジュツ) | 胃腸の湿を除き、消化を助ける |
|---|---|
| 厚朴(コウボク) | 気を巡らせ、胃腸の張りをとる |
| 陳皮(チンピ) | 気の流れを整え、消化を促す |
| 甘草(カンゾウ) | 胃腸を調和し、他の薬の働きを整える |
| 縮砂(シュクシャ) | 胃の冷えや嘔吐を防ぐ、理気・健胃 |
| 香附子(コウブシ) | 気滞を解消し、生理前の不調にも有効 |
| 生姜(ショウキョウ) | 胃を温め、嘔吐を抑える |
| 大棗(タイソウ) | 胃腸を補い、全体の調和をとる |
| 藿香(カッコウ) | 胃の働きを整え、香りで気を巡らせる |
平胃散は、蒼朮(君薬)が湿を取り除き脾胃を元気にし、厚朴が気の巡りを良くして胃のつかえを解消します。
陳皮が胃の働きを整え、甘草・生姜・大棗が全体のバランスをととのえます。
これに香附子・縮砂・藿香(カッコウ)を加えたのが香砂平胃散です。
香附子と縮砂が気の巡りと消化を高め、藿香が胃の不快感や吐き気をやわらげて、より穏やかに消化機能を整えるよう工夫されています。
よく使う症状


体力中等度で、食べすぎて胃がもたれる傾向のあるものの次の諸症:
食欲異常、食欲不振、急・慢性胃炎、消化不良
厚生労働省 薬局製剤指針の効能効果より引用
① 食欲不振
気の巡りを良くする生薬(香附子、陳皮、厚朴など)を多く含むため、ストレスや気滞による食欲不振に有効です。
また、不要な水湿を去る生薬飲み過ぎなどにも対応できます。
② 胃もたれ・消化不良
胃の動きを改善、消化を助ける生薬(蒼朮、藿香、縮砂など)が多く含まれるため、食べすぎや脂っこい食事による胃もたれ、腹部膨満感などの不調に適しています。
特に「ゲップがでる」「ガスがたまりお腹が張る」といった症状に使いやすい処方です。
注意点


飲めば必ず食欲を抑えるわけではない
香砂平胃散は本来、胃腸の機能を整えるための漢方薬です。
そのため「食欲を抑える薬」ではなく、「食欲の乱れを正常化する薬」と考えるのが正確です。
生理前やストレスで食べすぎてしまう“気滞タイプ”の人には、食欲の過剰を落ち着かせる効果が期待できますが、体質が異なる場合は逆効果になることもあります。
特に胃熱タイプ(食欲旺盛でのぼせやすいタイプ)では、胃の熱を高めてしまう恐れがあり、かえって食欲が増してしまうことも。
その場合は、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)などの清熱系の処方の方が適しています。
補剤(体力を補う生薬)は少ない
香砂平胃散は、人参や黄耆などの補剤を含まないため、長期間服用して胃腸を強くするタイプの漢方ではありません。
あくまで「一時的な胃腸の不調」に使う処方です。
慢性的な胃腸虚弱や、疲れやすさをともなうタイプには、
六君子湯(りっくんしとう)
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
といった補剤入りの処方がより適しています。
まとめ


今回は市販薬でも手に入れやすい「香砂平胃散(ホワイトルナ:タベルナ)」を紹介しました。
胃腸の不調を改善する漢方薬の選択肢の一つとして覚えておくと便利だと思います。
香砂平胃散は、「食べすぎ」「生理前の過食」などに使える、理気健胃の処方。
【よく使う症状】
- 食欲不振
- 消化不良
- 胃もたれ
- 異常過食(※限定的)
【注意すべき点】
- 食欲が抑える漢方薬ではない
- 補剤は含まない












