そんな人には五積散はがいいかもね。
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
外の気温が高くると冷房を使い、冷たい物を食べる頻度が増えます。
でも、便利な冷房、美味しい冷たい食べ物で体調を崩したことはありませんか?
これは内、外からの冷えで体のめぐりが悪くなったのが原因です。
そんな時に活躍する漢方薬が「五積散(ごしゃくさん)」です。
今回は近年の猛暑で起こりやすい冷房病などに活躍する「五積散」について解説していきます。
- 胃腸の弱い方
- 冷房で体調を崩す人
- 血流が悪いと感じる人
五積散ってどんな漢方薬?
簡単に説明すると
五つの積(つまり)を治す漢方薬です。
五積とは気・血・寒・食・痰(飲)の5つのことを指します。
- 気のつまり→張って苦しい
- 血のつまり→固定痛、生理不順
- 寒でつまり→冷感、冷えて悪化する
- 食でつまり→吐き気、腹痛、下痢
- 痰(飲)のつまり→重だるい、頭重感 など
この五つの積(つまり)は単独で存在すこともあるけど、複数同時に現れることが多いです。
出典:和剤局方
中焦(≒胃腸)を調えて気をめぐらし、風冷を除き、痰飲を化し、消化器の宿冷や腹やわき腹が張って痛むのや、胸に痰飲が停滞しているのや
ムカムカして嘔き気のあるものを治す
あるいは、外は風寒に感じ、内は生冷に傷られ、心服痞悶し、目がくらんで頭が痛く、肩背がこってこわばり、身体は重だるく
熱はさしひきし、食欲不振を治す。
また、婦人の生理が不調で、心腹につまむような痛みがあり、月経不順、無月経などがあるときはこの処方を服用すると良い。
※超意訳
代表的な条文には以上のように書かれています。
本来は、普段から冷たい飲食物が好きで、胃腸に痰湿がたまっている人が風寒邪に侵されたときに使うとされています。
ただ、現代では使える場面が多い処方です。
ポイントとして「冷え」があること。
条文にもあるように「外は風寒、内は生冷に傷けられ」というときに起こる不調によく使います。
具体的には
- 冬に生もの(生野菜、生魚など)を多く食べて不調
- 夏の冷房下で冷たいジュースやアイスを食べて不調 など
外気は寒い、内部は飲食物で冷えたときによく効きます。
本来は冬向け漢方薬だと推測されますが、冷暖房設備が整った現代では一年を通して活躍する漢方薬です。
構成生薬
≪生薬名≫ | ≪効能・効果≫ |
---|---|
桂皮、麻黄、白芷 | 発汗解表:表面の冷えを去る |
桂皮、乾姜 | 温裏:内部を温める |
蒼朮、厚朴 | 燥湿健脾:胃腸の働きを高め不要な水を去る |
陳皮、半夏、茯苓、生姜(二陳湯) | 理気化痰:気をめぐらせ痰を去る |
当帰、芍薬、川芎 | 活血補血:血を補い、めぐらせる |
桔梗、枳実 | 気の上下の動きを促進する |
甘草、大棗 | 薬性の緩和と脾胃の負担を和らげる |
※今回は構成生薬が多いのでジャンルでわけています(一部重複しています)
平胃散(食)、六君子湯-人参(食・痰)、当帰芍薬散(血、水)、桂枝湯(寒)、半夏厚朴湯(気)などが含まれる複雑な漢方薬です。※()は対応する積(つまり)
胃腸の働きを高め気血津液と冷えを去る構成になっています。
特徴なのは温める生薬が多いこと。
五積散には体表面(表)と内部(裏)を温める生薬が同時に含まれています。
内側、外側が冷えることで気、血、食、痰(飲)が滞るときに適した漢方薬です。
飽食&運動不足&冷える現代にとても相性の良い漢方薬です。
16味と構成生薬数が多い処方で、どちらかいうと各症状に対してマイルドに作用します。
複雑な処方なので、なかなかぴったり当てはまる人は少ないと思います。
そこで、その人の体質によってアレンジすることが大事です。
カゼのような体表面の症状が強ければ桂枝(桂枝湯)を、冷えや吐き気が強ければ呉茱萸(呉茱萸湯)、
消化不良があれば山査子、神麹、麦芽、四肢の冷えや痛みが強いなら附子(真武湯)を加えると良いです。
よく使う症状
体力中等度又はやや虚弱で,冷えがあるものの次の諸症:胃腸炎,腰痛,神経痛,関節痛,月経痛,頭痛,更年期障害、感冒
厚生労働省 薬局製剤指針より引用
夏場の冷房の冷え
個人的に一番使うパターンです。
特に夏場に冷たい飲食物を好んで食べる人に有効な漢方薬。
夏は暑いからと冷たい飲食物が多くなりやすく、胃腸が疲れやすいです。
ここに冷房で体を外から冷やすと痛みや、胃腸の障害が起こります。
いわるゆる「冷房病」というときです。
このようなときは五積散で内・外両面から温め体のめぐりを改善してあげると良いです。
最近は夏場の冷え相談も少なくありません。
冷房が強く体調が悪い方は覚えておくとよいでしょう。
胃腸の弱い方の腰痛、神経痛
五積散は寒い環境や冷たい飲食物の食べ過ぎで起こる腰痛や神経痛に有効です。
冷えが原因の痛みやしびれに対しては牛車腎気丸や大防風湯なども有効なのでが、これらの処方は温めるけど胃腸の負担が大きいです。
このような場面で五積散が活躍します。
胃腸の動きを改善する働きのある五積散は脾胃(≒胃腸)への負担が少ない処方です。
胃腸に自信がない人は五積散をオススメ。
月経痛、更年期障害
ここは注意!
冷えて気血が滞ると生理痛や生理不順の原因になります。
温め気血をめぐらす五積散は冷えるタイプの婦人病に対して有効です。
逆に体が火照る、イライラが強いタイプには熱を助長させてしまうため、不向きなので注意しましょう。
このイライラ、火照るタイプは加味逍遙散などを活用しましょう。
胃腸の負担が少ないのも○
一般的な婦人病の漢方薬は当帰や地黄が多く含まれ、胃腸に負担がかかってしまう人がいます。
そのような人は胃腸にやさしい五積散で様子を見ても良いです。
注意すべき点
胃腸の負担が少なく使いやすい漢方薬ですが注意点もあります!
確認していきましょう。
麻黄を含む処方
葛根湯や麻黄湯に比べると少量ですが、五積散は麻黄を含む漢方薬です。
麻黄で動悸、血圧が上がるような方は注意しましょう。
冷えない人には使いにくい
構成のほとんどが温性の生薬です。
身体が火照るタイプ、皮膚炎がある人が使う場合は注意しましょう。
また、補血の生薬を含みますが発散、痰湿を去る生薬を多く含むので陰虚、乾燥傾向の人も注意しましょう。
脾胃を補う生薬はあまり含まない
胃腸の働きを高める漢方薬ですが、人参や黄耆など脾胃を補う生薬は含まれません。
「積」を去る→要らないものを去る
不要なものを除くことで胃腸の働きを高めるということ。
脾気虚が主体に症状には補うタイプの漢方薬を組み合わせて使いましょう。
まとめ
16味からなる複雑な漢方薬「五積散」の解説をしていきました。
応用範囲が広く症状が複雑化した人には使いやすい漢方薬です。
今回の内容を簡単にまとめると
五積散は五つの積(気・血・寒・食・痰(飲))を取り去る漢方薬
【よく使う症状】
- 夏場の冷房の冷え
- 胃腸の弱い方の神経痛、腰痛
- 冷えタイプの婦人病
【注意すべき点】
- 麻黄を含む処方
- 冷えない人には使いにくい
- 脾胃を補う生薬は少ない
でも、冷たい飲食物の取り過ぎには注意しましょうね。