どんな便秘なの?
張って苦しいよ。
なら、麻子仁を試してみようか。
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
便秘でお悩みの方はいらっしゃいますか?
少し前のデータですが、日本の便秘人口は450万人を超えているそうです。
そのうち半分は女性。
特に高齢者の女性の便秘率が高いとされています。
最近では子供の便秘が増加しているのも問題視されています。
漢方相談をしていると便秘のお客さんに出くわすことは少なくありません。
「なるべく強い便秘薬を使いたくない!」と言われることも多いです。
そんな時に活躍するのが「麻子仁丸(ましにんがん)」
今回は虚弱者や高齢者でも使いやすい便秘の漢方薬「麻子仁丸」について解説していきます。
- 便が硬い便秘で悩んでいる
- 尿は出るけど便は出ない
- 強い下剤を使うと下痢しています
麻子仁丸ってどんな漢方薬?
簡単に説明すると
腸が乾燥する「腸燥」に対する漢方薬です。
出典の傷寒論には
足背の動脈に浮脈で濇(しょく)脈がでるのは、浮は胃の気が強く、濇(しょく)は小便が近いことを表している。
この2つが総合的に便秘をおこしている。これを脾約という。これには麻子仁丸をつかう。
※超意訳
麻子仁丸はこの「脾約」に対しての漢方薬です。
脾約とは津液(体に必要な水分)が全身に分布されない状態を指します。
※約は拘束の意味。脾胃は水分代謝の入口を主っています。
具体的な流れは、
- 胃腸の乾燥で脾陰(胃腸の潤い)が不足し、胃の陰を送ることができない
- 脾胃の水液運化(水分代謝)が低下
- 津液が全身に廻らず膀胱にたまり、頻尿になる
- 津液が不足し、腸にいかず腸燥便秘になる
このようなときに使うのが麻子仁丸です。
胃は強く脾は弱い(胃強脾弱)状態に使うのが特徴的。
便は兎糞状(ウサギの糞のようにポロポロ)で硬いのものに適しています。
構成生薬
≪生薬名≫ | ≪効能・効果≫ |
---|---|
麻子仁 | 潤腸通便(潤して便通をつける) |
大黄 | 熱を去り便通をつける(小承気湯の構成) |
芍薬 | 抗痙攣 脾陰を補う |
枳実 | 気を下ろし詰まりを去る(小承気湯の構成) |
厚朴 | 気を下ろし詰まりを去る(小承気湯の構成) |
杏仁 | 不要な水と熱を去る |
君薬(メインの生薬)は麻子仁で潤腸通便にはたらきます。
杏仁は肺の気を降ろす(肺は大腸の裏)、大腸を潤す。
芍薬も脾の陰を補う。
大黄、枳実、厚朴は小承気湯の組み合わせで気をめぐらせ胃腸の熱を去る。
大黄は強力な下剤、瘀血を去る生薬、枳実、厚朴の組み合わせは食べ過ぎなどの詰まりを去り、気を下ろす作用があります。
小承気湯は強い作用で、使い続けると体力を失う恐れがありますが、麻子仁や蜂蜜を加えることで補う力が足され長期で使えるよう工夫されています。
そして、大事なのが生薬をつなぎ合わせるために使う蜂蜜(はちみつ)です。
はちみつは腸を潤し便通を改善する働きがあります。
(2024/11/21 16:44:21時点 楽天市場調べ-詳細)
よく使う症状
体力中等度以下で,ときに便が硬く塊状なものの次の諸症:便秘,便秘に伴う頭重・のぼせ・湿疹・皮膚炎・ふきでもの(にきび)・食欲不振(食欲減退)・腹部膨満・腸内異常醗酵・痔などの症状の緩和
産後、老人性の便秘
特に高齢者で頻尿傾向の方の便秘にはよく使います。
人間は加齢とともに潤い(津液)を失いやすく、腎の気が低下することで頻尿になりやすいです。
すると、腸の乾燥が進み便秘気味になります。
また、産後は体の陰液(血・津液)を大量に失うので便秘になりやすいです。
麻子仁丸はこの様な便秘に活用できます。(産後は四物湯などを合わせると良い)
腸を潤しながら便通を改善するので、強い下剤を使って腸の乾燥がさらに悪化した人に有効です。
似た理由でカゼの治療で発汗、暑い日に発汗することで体の潤いがなくなり、便秘になる方にも有効です。
胃の気が強い(食欲旺盛)で便秘
原文通り胃は元気で食用が旺盛だけど便秘する人に有効です。
過食は「胃熱」状態の人が多いですが、胃熱をとる漢方薬は単体で使うと脾胃(≒胃腸)を乾燥させることもあるので、併せて麻子仁丸を使うと有効的です。
便秘に伴う湿疹、ニキビ、吹き出物
便秘になると皮膚の症状が悪化します。
これは「皮毛を主る」肺と大腸が表裏の関係にあるためです。
まずは食生活を整え、それでもダメな場合は麻子仁丸などの優しい便秘薬から始めてみましょう。
注意すべき点
妊娠の可能性がある人は注意
少量とはいえ大黄が含まれる漢方薬です。
妊娠の可能性がある人が使用する際は自己判断をせず、かかりつけの産婦人科の先生に相談しましょう。
過敏性腸症候群には向かないことがある
痙攣便秘(ストレスなどで腸の一部がけいれん)や過敏性腸症候群は大腸の動きが乱れて起こる症状には注意。
腸の動きが敏感な状態に麻子仁丸を単体で使用すると下痢を引き起こす可能性があります。
下痢と便秘を繰り返す様な症状のときは注意しましょう。
とはいえ、麻子仁丸は気をめぐらす生薬も含まれるので他の処方と合わせると効果的なことも多いです。
下剤としての効能は強くない
メリットでもあることですが、麻子仁丸の下剤としての効能は強くはありません。
体質改善として少し長いスパンで服用すると良いと思います。
根本的に…
漢方相談をしていると「便が毎日でないと気持ち悪い」「下痢してでも便を出したい」と便秘の薬を買っていく方を見ます。
慢性便秘症診療ガイドライン2017では、便秘とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。
「毎日快便」メディアには出ていますが、便の回数、頻度は個人差があります。
2日に1回、3日に1回でもお腹が苦しくなかったり、便が硬くなければ問題ありません。(1週間以上でない、苦しい場合は必要)
この傾向は特に高齢者に多いように感じます。
自分の排便の状況を良く見極めてから使うようにしましょう。
まとめ
今回は優しい便秘薬の代表「麻子仁丸」について解説しました。
便秘だけど下剤を使うと下痢してしまう人は検討してみてください。
今回の内容を簡単にまとめると
麻子仁丸は乾燥傾向の強く便が硬い人向けの便秘薬
便秘薬の中では長期服用向け
【よく使う症状】
- 産後、術後、老人性の便秘
- 胃の気が強い(食欲旺盛)で便秘
- 便秘に伴う湿疹、ニキビ、吹き出物
【注意すべき点】
- 妊娠の可能性がある人は注意
- 過敏性腸症候群には向かないことがある
- 下剤としての効能は強くない
最初は便秘薬で排便習慣をつけ、少しずつ食事と運動などでコントロールできるようにしよう!