お腹がひきつるように痛いんだ…
もう少し話を聞いてからだけど、桂枝加芍薬湯なんかが候補に上がるかもね!
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
お腹の痛みって、つらいですよね。
近年、過敏性腸症候群(IBS)のご相談が増えています。
そのようなときに活躍するのが 「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」。
下痢や便秘を繰り返したり、ストレスでお腹が痛くなりやすい方によく使われます。
今回は、腹痛に使われる桂枝加芍薬湯について解説していきます。
- 下痢・便秘をしやすい
- お腹が痛くなりやすい
- ストレスでお腹が痛くなる
桂枝加芍薬湯ってどんな漢方薬?

簡単に説明すると
桂枝加芍薬湯は「桂枝湯」をベースに、お腹の症状に効果を発揮する漢方薬です。
出典である『傷寒論』には、
「(寒気の強いカゼに)発汗剤を使うべきときに医者が誤って下剤を使ったため、腹が張って時々痛むようになった。これは桂枝加芍薬湯で治す」
※超意訳
と記されています。
「そんなことあるの?」と思われるかもしれませんが、昔は風邪(カゼ)に対して下剤を使うことも多かったのです。
ただ、この場合、本来は冷えによる風邪(カゼ)で、発汗によって治すべきところを誤って下したため、腹痛が起こったという状況です。
背景にある体の状態
- 下剤の誤用により、脾胃(≒胃腸)の気を消耗
- その結果、脾虚となり、肝の気を受け止めきれずに過剰に動いてしまう状態
→ これを「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」※「木乗土」といいます。
「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」とは、
胃腸が弱ってストレスに負けやすくなり、イライラや腹痛などが起こる状態のことです。
「脾虚」= 胃腸が弱って元気がない
「肝乗」= ストレスや緊張で自律神経が乱れ、胃腸を攻撃してしまう状態
つまり、胃腸(脾)が弱っているところに、ストレス(肝)がのしかかってくるというイメージです。
この状態になると、お腹が張ったり、痛くなったり、便がゆるくなったりしやすいです
しかし、胃腸が弱っていると、その「借りている力」がかえって負担となり、逆に胃腸の働きを妨げてしまうことがあります。
桂枝加芍薬湯は、こうした肝と脾のバランスの乱れを整える漢方薬です。
もともとは、「下剤を使ってお腹の力(=脾の力)が弱ってしまったとき」に使う漢方薬でした。
でも、現代では慢性的なストレスが原因でお腹の調子を崩す人が多くなっています。
ストレスが強すぎると、肝(かん) の働きが乱れて、
- 肝の陽気が暴走してお腹が痛くなる
- 慢性的なストレスで「肝陰虚(かんいんきょ)」になる※陰が少なくなり陽を制御できない
こうしたケースにも、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう) はよく使われます。
構成生薬
≪生薬名≫ | ≪効能・効果≫ |
---|---|
桂枝 | 温め陽を補う |
生姜 | 温める 桂枝との組み合わせで辛甘化陽 |
芍薬 | 陰血を補う(倍増されている) |
大棗 | 脾胃を整える 白芍との組み合わせ酸甘化陰 |
甘草 | 胃腸を整え 虚に対抗する |
桂枝加芍薬湯は「桂枝湯」の芍薬の量を増やした処方です。
また、桂枝加芍薬湯に膠飴を加えると、小児の腹痛や虚弱に使う「小建中湯」になります。
芍薬には柔肝作用(血を補うことで肝を和らげる)に加え、抗けいれん作用もあります(芍薬甘草湯にも含まれる組み合わせ)。
そのため、ストレスなどによる急な腹痛や筋肉の緊張にも効果が期待されます。
一般に漢方では、
- 短期的な使用 → 生薬の種類が少ない処方
- 長期的な使用 → 生薬の種類が多い処方
といわれます。
桂枝加芍薬湯は生薬数も少なく、短期的な症状にも使いやすいです。
ただし、構成的には小建中湯よりも補の力はやや弱めながら、慢性症状にも十分対応できる処方でもあります。
よく使う症状

体力中等度以下で,腹部膨満感のあるものの次の諸症:しぶり腹,腹痛,下痢,便秘
厚生労働省 薬局製剤指針より引用
腹痛・しぶり腹
特にストレスや胃腸の疲れによって腸管が緊張し、腹痛が起こる場合に向いています。
芍薬と甘草の組み合わせはこむら返り、けいれんにも用いられるように、など筋肉の緊張緩和に優れています。
下痢・便秘に
腸の動きを整える作用があるため、下痢と便秘を繰り返す人(過敏性腸症候群)にも適しています。
直接的な下剤(大黄など)を含まないため、胃腸虚弱者の便秘にもよく使います。
『傷寒論』には、「大実痛(強い痛みで、押さえられるのを嫌がる)」がある場合は「桂枝加芍薬大黄湯」を使うと記されています。
この場合は大黄で下すことが必要です。
子どもには「小建中湯」が良い場合も
子どもには「小建中湯(しょうけんちゅうとう)」がおすすめです。
これは、「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」に滋養作用のある膠飴(こうい)を加えた処方で、虚弱体質や慢性的な腹痛に用いられます。
東洋医学では、子どもは“脾(ひ)”—つまり胃腸の機能が未発達で虚しやすいとされ、成長や精神的なストレスによってさらにエネルギーを消耗しやすくなります。
中焦(ちゅうしょう:胃腸)の気血を補いながら、体力や神経のバランスも整える処方として、虚弱傾向のある子どもに適した漢方薬です。

PTSDのフラッシュバックと漢方薬 ―「神田橋処方」とは?
PTSDのフラッシュバックに対する漢方治療として、「神田橋処方」と呼ばれる組み合わせが知られています。
これは、四物湯と桂枝加芍薬湯を併用する方法です。
- 四物湯:血(けつ)を補う基本処方。
- 桂枝加芍薬湯:陰陽のバランスを整える桂枝湯がベースで、増量された芍薬は筋肉の緊張や精神の不安を和らげる。
西洋医学的には明確な作用機序はまだ解明されていませんが、東洋医学的には「精神を支える血を補い、過敏な神経反応を調整する」働きがあると考えられています。
自己判断で服用することはオススメしません!きちんと専門家に相談しましょうね。

注意すべき点

寒熱のバランスが取れていて比較的使いやすい処方ですが、以下の点には注意しましょう。
食べすぎタイプの胃腸障害には向かないことも
桂枝加芍薬湯は虚弱タイプの胃腸障害に向いています。
そのため、食べすぎやすかったり、むくみやすい「重だるいタイプ」の人には、合わないこともあります。
こういったタイプは、体の中に余分なものをため込みやすくなっているため、まずはそれを外に出すような漢方が必要になります。
→その場合は、消化を助ける漢方に切り替えるか、併せて使うことを検討しましょう。
胃腸が極端に弱っている人には重くなることも
芍薬は当帰や地黄に比べると胃腸への負担は少ないですが、水分代謝が落ちていて、胃腸が極端に弱っている人には重たく感じることもあります。
まとめ

今回は、腹痛に効果的な漢方薬「桂枝加芍薬湯」についてご紹介しました。
お腹の調子が乱れやすい方は、一度検討してみてください。
今回の内容を簡単にまとめると
桂枝加芍薬湯は、桂枝湯をベースにした腹痛・胃腸症状に使う漢方薬
【よく使う症状】
腹部膨満感、しぶり腹、腹痛、下痢、便秘
【注意点】
食べすぎタイプの胃腸障害や、極端に胃腸が弱い人には不向きなことも
そういえば、学校で発表なんかがあったから緊張してたのかも!
少し落ち着いたら、リラックスを心がけるといいかもね!
消化の良い食事は忘れずに!