
体が熱っぽいし。
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
現代人は、常にストレスにさらされていますよね。
ストレスで下痢をする人が多いですが、中には溜め込んで便秘になる方もいます。
そんなとき、漢方の選択肢に挙がるのが「大柴胡湯(だいさいことう)」です。
最近はダイエット漢方薬として注目されることもあります(後述しますがあまり推奨はしません)。
今回は、イライラとお腹の張りに使われるこの漢方薬「大柴胡湯」について、詳しく解説していきます。
- イライラする
- 体が熱っぽい
- お腹が張る・便秘気味
大柴胡湯ってどんな漢方薬?


簡単に説明すると、
気の停滞や熱が体内に奥に滞っている状態に用いる処方です。
出典となる『傷寒論』には、
太陽病の状態が10余日続いている、なお発汗すべきだったのに、誤って2~3回下してしまった。(下剤で治療)
その後さらに4~5日たって、今度は柴胡剤の証になっていたら、まず小柴胡湯を与える。
それでも嘔吐がやまず、心下部に張りを感じ、鬱々としてモヤモヤするなら、大柴胡湯で下せば治る。
※超意訳
この用に書かれています。
本来は風邪に対して発汗で対応すべきところを、下剤を使ってしまったために、邪が体の奥に入り込んでしまった。小柴胡湯で対応できる段階を越えて、熱を伴ってこじれた状態に使われるとされる処方です。
『傷寒論』では、六経弁証という診断法で病の段階を分類します。
- 外からやってくる邪の初期 → 太陽病
- もう少し入り込んだ状態(半表半裏) → 少陽病
- 体内に深く入り、熱証が強い状態 → 陽明病
大柴胡湯は、少陽病と陽明病が同時に見られる証に使われます。
【半表半裏証とは?】
発熱性・炎症性の疾患の進行途中で見られる状態です。
邪が体に侵入し、奥深く入り込もうとしている段階ともいえます。
特徴的な症状には、
悪寒と熱感を繰り返す(往来寒熱)
胸脇部の張りや痛み(胸脇苦満)
があります。
代表的な処方は条文にも出てくる小柴胡湯です。
構成生薬
| 柴胡(さいこ) | 疎肝:ストレスで滞った気の流れを整える。イライラや胸のつかえを和らげる。 |
|---|---|
| 黄芩(おうごん) | 清熱:体の中の余分な熱を冷ます。炎症やイライラの緩和。 |
| 枳実(きじつ) | 理気:お腹の張りやつかえを改善する。気の巡りを助けて消化を促す。 |
| 大黄(だいおう) | 清熱・瀉下:便秘を改善と体にたまった熱も外に出す。 |
| 芍薬(しゃくやく) | 柔肝:汗血を補うことでストレスに対抗する。筋肉の緊張や腹痛をやわらげる。 |
| 半夏(はんげ) | 化痰・止嘔:吐き気や胃の不快感を抑える。不要な水分(が少し固まった)を去る。 |
| 生姜(しょうきょう) | お腹を温めて、吐き気や冷えを改善する。水分代謝・消化を助ける。 |
| 大棗(たいそう) | 他の生薬の働きをサポートする。胃腸の負担を軽減。 |
小柴胡湯から人参と甘草を除き、大黄・枳実・芍薬を加えた構成になっています。
メインは柴胡。黄芩がサポートするのが半表半裏の処方の特徴。
柴胡の量も多く、破気作用のある枳実と組み合わせることで、気を巡らす力が強いです。
また、大黄は「瀉下熱結(しゃげねっけつ)」といって、便とともにこもった熱を体外に排出する働きがあります。
ここに生姜・半夏・大棗・芍薬が加わることで、消化器系の調整や緊張の緩和にも働きかけます。
全体として、気と熱が上部に偏っている状態を下に降ろし、排泄によって体内のバランスを整える構成になっており、気滞(きたい)や熱感、便秘などを伴う実証タイプに向く処方構成となっています。
大柴胡湯去大黄
一般的には大黄入りの大柴胡湯が主流ですが、「大柴胡湯去大黄」という処方もあります。
熱と気が詰まっているタイプでも、便秘のない人には使いやすい処方です。
日本人は中国人に比べて胃腸が弱い傾向があるため、去大黄が活躍する場面は意外と多く、刺激の強い大黄を省くことで使いやすくなるケースもあります。
胃腸があまり強くないタイプに使う場合は、大黄が入っていない方が合いやすいです。
よく使う症状(効能効果)


体力が充実して,脇腹からみぞおちあたりにかけて苦しく,便秘の傾向があるものの次の諸症:胃炎,常習便秘,高血圧や肥満に伴う肩こり・頭痛・便秘,神経症,肥満症
厚生労働省 薬局製剤指針より引用
神経症
これは気の滞りから起こるタイプです。
- 目が血走ってしまう
- 怒りで「炎が見えそう」な状態
こういったイライラ・怒りっぽさが目立つ人に合います。
落ち込むタイプというより、癇癪を起こすタイプにおすすめです。
脇腹からみぞおちが苦しい
これは、少陽病(しょうようびょう)の典型的な症状のひとつ、「胸脇苦満(きょうきょうくまん)」と呼ばれる状態です。
とくに、「圧迫感」や「つかえ感」よりも明確な張り・膨満感があるときに大柴胡湯が適します。
ストレスや情緒の停滞によって、気が胸や脇にこもりやすい人に有効です。
便秘、常習便秘、胃炎
心下部(みぞおちあたり)に詰まり・緊張感がある場合の便秘に有効です。
また、脇腹から腹部にかけて張り・圧痛があるような便秘にも使えます。
熱がこもると、脾胃の昇降(消化吸収・排出の流れ)が乱れ、胃気上逆(吐き気や胃の不快感)を引き起こすことがあります。
このような胃の状態に対しても有効です。
高血圧・肥満
イライラしやすく、癇癪を起こすようなタイプに向いています。
ただし、どんな肥満や高血圧にも適しているわけではありません。(ここは注意!)
① 便秘の改善
体内に溜まった便が出ることで、一時的に体重が減ったり、お腹周りがスッキリしたりします。
排便自体もカロリーを消費するため、一時的な体重減少やカロリー消費が期待できます。
② 食欲の調整(間接的に)
気の滞りによって起こるイライラ・ストレス性の過食に対して、精神的な緊張を緩めることで食欲が落ち着く可能性があります。
③ 気と熱のつまりからの高血圧
ㇲトレスや気の滞り、熱のこもりが原因で血圧が一時的に上がっているタイプに向いています。
特に、怒りっぽい・イライラしやすい・便秘がち・上半身が熱っぽいといった症状を伴う場合に有効です。
ただし、血圧を下げる薬として日常的に長期服用するものは注意が必要。
体の強さやストレスを感じやすい環境などを考慮して使っていきましょう。
あくまでサポートということを意識しましょう。
頭痛や肩こり
ストレスで悪化するタイプの痛みに。
身体のどこかで詰まりがあると、上下の巡りが悪くなってしまいます。
そうした「張り」+「痛み」のときに検討します。
注意点


長期服用には注意
大柴胡湯は、補う生薬が少ない処方です。
あくまで、一時的な熱と気のつまりを取る目的で使用します。
体があまり強くない人がダラダラと長期で飲むと、体が虚してしまう可能性があります。
胃腸が弱い人は注意
効能に「胃炎」がありますが、胃腸を強くする処方ではありません。
- 下痢しやすい
- 疲れやすい
- 食が細い
こういった方には負担になる可能性もあります。
大柴胡湯が適しているのは、もともと胃が丈夫な人が、ストレスや過食をきっかけに起こす急性の胃炎です。
一方で、胃の機能が低下したことによる慢性的な胃炎には合わないことが多いため、注意が必要です。
また、大黄は不要な熱を去る生薬。
体が冷えやすい人にも注意が必要です。
市販で大柴胡湯を選ぶときのポイント


市販の大柴胡湯は、「ダイエット漢方」として販売されていることも多く、ドラッグストアやネット通販でも手軽に手に入ります。
しかし、「何となく痩せそうだから」という理由だけで選ぶのはおすすめできません。
自分の体質や症状に合っていないと、思うような効果が得られないだけでなく、体調を崩すこともあります。
以下のポイントを押さえて、自分に合っているかどうかをしっかり見極めましょう。
便秘気味で、イライラしやすく過食がちな人は検討の余地あり
大柴胡湯は、ストレスによる食べすぎやお腹の張り感がある人によく使われます。
とくに「気が上にのぼりやすい体質(イライラ・のぼせ・便秘気味)」の人には検討の余地があります。
「効能効果」だけで判断しないで
市販薬には「肥満症」「便秘」などの効能効果が書かれていますが、それだけで決めるのは危険です。
漢方は“体質に合ってこそ効く”もの。同じ症状でも人によって適する処方が異なります。
「飲めば痩せる漢方」ではありません
大柴胡湯は、ダイエット向けとして紹介されることもありますが、単に飲むだけで体重が落ちる薬ではありません。
ストレスによる食べすぎや便秘など、ダイエットを阻む要因が明確にある人に対して、体の流れを整える手助けをする処方です。
基本的には短期間の使用が前提
市販薬であっても、漫然と飲み続けるのはNGです。
体質が変わってきたり、効果を実感できない場合は早めに専門家に相談しましょう。
迷ったときは、専門家に相談!
「痩せたいけど、漢方薬で簡単に痩せられる?」という疑問をお持ちの方は人は、以下の記事も参考になります。
まとめ


今回は、便秘、イライラ、肥満によく使われる漢方薬「大柴胡湯」についてご紹介しました。
ため込みやすいタイプの方には、体質や症状に合わせて検討してみてもよい処方です。
今回の内容を簡単にまとめると
大柴胡湯は、強力に気と熱をどかし詰まりを改善する処方。
【よく使う症状】
- 胃炎(ストレスによる急性タイプ)
- 常習便秘
- 高血圧・肥満に伴う肩こり・頭痛・便秘
- 神経症(イライラタイプ)
- 肥満症
【注意点】
- 長期服用は避ける
- 体を冷やす可能性あり
- 胃腸に負担がかかる可能性あり
青さんはすぐにため込んじゃうタイプだから、
巡らす養生を普段から意識しないとね。
ずっと座って、イライラしながら仕事してるとか、注意だよ?
うううう、気をつけます!













