市販類似薬は保険対象外 病院処方の風邪薬など 医療費抑制へ政府調整
政府は30日、全世代型社会保障改革の一環として、市販の医薬品と同じような効果があり代替が可能な薬(市販品類似薬)について、公的医療保険の対象から除外する方向で調整に入った。市販品は全額患者負担だが、病院で処方箋をもらって薬を購入する場合、自己負担は1~3割で、残りは税金や保険料から賄われる。政府は自己負担を引き上げることで医療費抑制につなげたい考えだ。
政府は、全世代型社会保障検討会議が12月中旬にまとめる中間報告に盛り込むことを検討しており、来年以降、随時進めていきたい考えだ。
保険除外の対象として想定しているのは風邪薬や花粉症治療薬、湿布薬、皮膚保湿剤、漢方薬などの軽症薬。これらの薬を市販品より安く入手するために、患者が病院で受診するケースは多く、かねて過剰な受診を招く要因になっていると指摘されていた。
12/1(日) 6:25配信産経新聞 より引用
現役の漢方薬剤師としてはなかなか複雑な話題です。
漢方薬の保険適用外のニュース。
漢方薬局の仲間内からも何かとざわめいている話題です。
また、現在病院で漢方薬を処方されている人からすれば3割負担が10割になる死活問題です。
今回は現役の漢方薬局勤務の立場からこの話題についての個人的見解を述べたいと思います。
保険適用外になる医薬品が出る背景
医療費、18年度42・6兆円 2年連続増加で過去最高
厚生労働省が26日発表した2018年度の概算医療費は42.6兆円で、前年度に比べ0.8%増えた。増加は2年連続で、過去最高を更新した。75歳未満の医療費は0.2%減となった一方、75歳以上で2.4%増となったことが押し上げた。高齢化や医療技術の発達に伴い、今後も医療費は膨らむ見通しだ。
日本経済新聞 2019/9/26 より引用
人口減少&高齢化が進み医療費が増大したことでそれを少しでも下げるために今保険適用されている医薬品を適用外にする方向に話が進んでいます。
なぜ漢方薬なのか?
今回保険適用外の候補は
- 風邪薬
- 花粉症治療薬
- 湿布薬
- 皮膚保湿剤
- 漢方薬
などの軽症薬。
この軽症薬という言葉が一つキーワードになりそうです。
現在、医療用になっている漢方薬はメーカーをこだわらなければほとんどがドラッグストア、漢方薬局で手に入ります。
医療用は手に入りません同成分の第二類医薬品としては購入可能という意味です。
ただ手に入ると言っても漢方薬には
- 葛根湯などの様に短期間で効かせる漢方薬
- 慢性病に使用する漢方薬
があります。
確かに最近は慢性病に使用する漢方薬もドラッグストアに置いてはあります。
ですが慢性病の場合服用する期間は月、年単位!
風邪薬や軽度な花粉症薬等の比較的短期で服用する薬と慢性疾患に有効な漢方薬を同一に「軽症薬」とくくってしまって良いのか?
という疑問が残ります。
本当に漢方薬は保険適用外になるのか?
先に私の考えの結論を言っておくと
「すぐには全ての漢方薬が保険適用外にはならない」
っと考えています。
ただ同時に「いずれ段階的に保険適用から外れるリスクはある」とも考えています。
すぐに適用外にならない理由①ツムラ
ツムラは漢方メーカーで唯一「東証一部上場企業」
2018年の売上高 1,209億円 営業利益 185億円 の漢方業界の大巨人です。
このツムラ医療用漢方のシェアがなんと8割超え!
OTCに力を入れているとはいえ売上の9割は医療用の漢方薬のツムラ。
すべての漢方が保険適用外になるとこのツムラが確実に倒産すると言われています。
いくら医療費削減が目的とはいえ東証一部の企業が確実に潰れるという結論をいきなりつきつけることは無いのでは?
っと考えています。
すぐに適用外にならない理由②エビデンスのある漢方薬
漢方薬は検査や臨床データがなかった時代の医学。
各種データがなくても基本的には四診という診断ができれば処方を決めることができます。
ですが漢方薬にはキチンと基礎研究、臨床のデータが取れているものも多くあります。
特に有名なものが『大建中湯』
この処方本来お腹を温め腹痛などを治す漢方薬ですが、今いちばん有名な使い方は。
術後の腸閉塞(イレウス)の予防
手術後の患者にバンバン処方されています。
実際「大建中湯を服用することで入院期間を縮める事ができる。」という研究結果も出ています。
この様な代替が効かない漢方薬も多く存在し、現在も服用している患者は数多くいます。
それをいきなり適用外!っというのは流石に問題が出てくると感じてはいます。
そのため適用外になるならまずはエビデンスが無い漢方薬からなのでは!っと私は考えています。
すぐに適用外にならない理由③これまでにも否決されている
実は漢方薬が保険適用外にしよう!
っという議論はこれが始めてではありません。
有名なのは民主党政権時代の「事業仕分け」
この時は約90万通近くの署名(10万近くが電子署名)が集まり保険適用の継続に大きく後押しをしました。
それ以外でも保険適用外の話題に漢方薬はいつも上がります。
ただ有効な治療ということで毎回否決されてきました。
どさくさに紛れて適用外に!
なんてことがあるかもしれません。
保険適用外になると起こる大問題【漢方業界の衰退】
今回の保険適用の議論をしている有識者たちがこのことをどこまで考えているかは知りませんが
漢方薬が保険適用外になれば『漢方業界は衰退する』と言われています。
これはなぜか??
キーワードは『中国』
現在漢方薬の原料は大半が中国からの輸入品になります。
一部日本で生産されている物もありますが生産量、コストの面では到底かなうものではありません。
近年、中国の景気が好調だった為に国内需要が高まり生薬の値段が高騰。
多くの漢方薬局が苦しんでおります。
そこに保険適用外で医療用漢方薬の消費が落ち込むと
- 中国からの輸入量が激減。
- 取引量が減るため生薬の値段がさらに高騰。
- 原料の値上がりで漢方薬の値段も高騰
- 日本での漢方薬全体の消費が落ち込む
- 多くの漢方薬局、漢方メーカー(問屋)、漢方専門医が廃業
この負のスパイラルで漢方業界が衰退
っと考えられます。
生薬の世界は「中国」がほぼ独占している業界。
取引量が少なくなってしまうと値段交渉ができなくなり生薬の値段を吊り上げられてしまいます。
また生薬は天然の物。
洪水や天候不良でも値段は高騰します。
2年で1度の薬価改定での漢方薬、生薬の薬価の低下もメーカー、問屋を苦しめています。
漢方薬局の薬剤師からみる医療用漢方
漢方薬局で漢方薬を買う場合しかっり1カ月服用するための費用は約2万円前後。
保険で処方されれば約3分の1位まで抑えることができます。
お客様(患者様)も同じ処方なら安い方に行くのは当然で、貰えるなら保険でだしてもらうのがよいでしょう。
ですが専門的に診断ができる先生が多い訳ではありません。
その結果間違った漢方薬の出し方をしている事案が良く見受けられます。
本来は30分から1時間の専門的な診察が必要な漢方が「病名」「効能効果」だけで処方される事が多いのです。
「表裏寒熱虚実陰陽」がバラバラな事もしばしば。
間違った漢方薬を服用して
「漢方薬は効かない!」っと思われてしまう事にヤキモキする事もあります。
漢方薬だから安心!
っととりあえず処方された漢方薬が多い事も問題だと思います。
その様に処方された漢方薬が効く確率はとても低いです。
なぜ漢方専門医が少ないのか?
治療効果も高く、体に優しい漢方薬を扱う専門医がなぜ少ないのでしょう?
もうからない
漢方相談は通常30分から1時間の診察時間が必要です。
1日に診察出来る患者さんは多くても14.5人だと思います。
それ以上は質がおちてしまいます。
そして漢方薬を処方したからといって加算が多く取れるわけではありません。
また特殊な検査をするわけではないので患者さん一人の単価は高いものではありません。
そうなると…
1日に100人診る先生と比較すると利益は明らかに低いものになります。
勉強する機会がない。
隣国にも伝統医学が存在します。
ですが勉強する環境は全く違います。
中国」「韓国」には中医学、韓医学の国家資格があります。
当然専門の大学も存在します。
それに対して「日本」には漢方の国家資格はなく、専門の大学もありません。
そして日本の薬学部、医学部で漢方薬を教えるウェートはとても少なくほとんどが西洋医学を学びます。
国家試験でも問題としては少なく大学が積極的に教えるメリットがすくないためです。
4年から6年間毎日しっかり勉強してきた中医師、韓医師対して、日本で漢方薬を試みる人は大学卒業、国家試験合格後に自身で勉強を始めなくてはなりません。
修行期間は賃金も低く1人前になるまでにそれなりの期間が必要。
6年間の大学生活の後にこれは中々ハードルが高い事です。
漢方薬を守るために私が考える対策や願い。
深刻な高齢化社会になり医療費が増えていくのは確実です。
医療費削減に政策が進んで行くのは仕方が無いことなのかも知れません。
ですが効果を実感している患者さんや漢方専門医に負担を増やす事には疑問を感じます。
無駄な診療を避ける
これは漢方診断だけの話ではありません。
高齢化が進んでいる今、医療費の無駄を減らさないと適用外の候補はどんどん増えていくでしょう。
薬剤師の立場から見ていて、必要ない薬、診察は数多く存在します。
(調剤専門の方はもっと多く感じているでしょう)
まずは国民が「健康保険」のあり方をもう一度再確認する必要があります。
健康保険を使っているということは7割税金であることを患者、治療者も考えなくてはいけません。
健康保険は助け合い。
患者さんは
「自分だけが良い!」「使ったほうがお得」
治療者は
「いっぱいだし方が患者さん受けが良い」
専門性をつける
漢方を保険で処方するのであれば闇雲に出すのではなく専門性を強くする事を切に願います。
- 胃痛→六君子湯
- イライラ→加味逍遥散
- 生理痛→当帰芍薬散
この様な症状のみで漢方薬を処方しても効く可能性が低いです。
そして効かなければ医療費の無駄になります。
知識を得る環境整備と漢方専門医への加算などの配慮が必要だと思います。
漢方薬を身近に(相談薬局の存在)
先述したように漢方薬は健康保険でなくても手に入れることができます。
専門的な知識をスタッフが多ければドラッグストアでももっと販売することができるでしょう。
ドラッグストア、漢方薬局で漢方薬を販売するのは
「病院に行くまでではない」
「検査結果には問題ないが調子が悪い」
この様な人たちの受け皿になり
国がすすめる「セルフメディケーション」「医療費の節約」の中心になるべき方法だと思います。
ですがドラッグストアには専門的なスタッフが不在。
漢方薬局は
- 生薬の高騰
- 経営者問題
- 医療用漢方薬の乱用
の三重苦で店をたたむところが少なくありません。
自宅の近くに専門性をあり気軽に行ける薬局があったら便利だと思いませんか?
医療費の削減を進めるのであれば「相談薬局」などの病院を行く前段階の存在が必要になってくると思います。
相談薬局など健康相談を身近にできる環境を整備したらどうでしょう?
そして健康食品、医薬品を上手く使えれば医療費の削減もできるのではないでしょうか?
その中でも漢方薬は使い方によって色々な症状の改善ができる必須アイテムだと思っています!
最後に
日本の伝統医学である漢方薬。
もしかしたら今回の保険適用外の有無が大きな転換期になるかもしれません。
今回議論に参加している有識者の中には漢方薬は
- エビデンスがない
- プラセボ効果だ
- 気休めだ
等とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
ですが漢方薬で救われた患者はたくさんいます!
漢方薬剤師としてそれは自信もって言えます。
保険適用↔保険適用外
どちらの結論がでるかはまだわかりませんが、誰もが納得できる結論に至ることを切に願います。
今回は漢方薬局の薬剤師という少し特殊な目線から漢方薬の保険適用問題に触れてみました。
お見苦しい点などもあったと思いますがご容赦いただければと思います。