
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
手首や膝、肩などの「痛み」は、多くの方が抱えるお悩みのひとつ。
特に年齢を重ねると痛みによる悩みは増えていきます。
この「痛み」はつらいだけでなく、日常生活の質を下げてしまう原因にもなりますよね。
中医学では、こうした痛みにはいくつかの「原則」と「パターン」があると考えます。
今回はその基本となる考え方「不通則痛」と「不栄則痛」、そして古くから伝わる「痺症(ひしょう)」ついて解説していきます。
- 体の痛みを感じやすい
- 特定の条件下で痛む
- 痛みが慢性化している
痛みはQOLを下げる


痛みは、私たちの生活の質(QOL)を確実に下げる要因です。
- 痛いから趣味をあきらめる
- 行きたい旅行に行けない
- 長時間の同じ姿勢に耐えられない(映画・コンサートなど)
こうした状況になると、身体的な制限だけでなく、活力の低下・メンタル面(気力・やる気)への影響も無視できません。実際、慢性痛を抱える人は一般人口と比べてQOL指標が有意に低いという調査があります。
また、市販・処方の解熱鎮痛薬(NSAIDsなど)を長期間使用すると、胃腸・腎臓に負担がかかることも報告されています。
短期使用であれば大きな問題になりにくいですが、痛みが慢性化すると“痛み+薬の影響”という二重負荷がかかるため、痛みそのものを軽減することと、体にかかる他の負担を減らすことの両方が重要です。
不通則痛と不栄則痛
中医学では私たちが感じる「痛み」は、単なる神経の反応ではなく、体の中の“気血の滞り”や“栄養状態”の乱れが表れたサインと考えます。
不通則痛(ふつうそくつう)


「通らざれば、すなわち痛む」
中医学では、気血の流れが滞ると、経絡(けいらく)に通じない部分が生まれ、そこで痛みが起こると考えます。
具体的には、冷えやケガ(外傷)、ストレスなどによって気血の運行が妨げられた状態です。
【痛みの特徴】
- 刺すような痛み
- 痛む場所がはっきりしている
- 押すと強くなる
- 冷えると悪化する
不栄則痛(ふえいそくつう)


「栄えざれば(栄養不足)、すなわち痛む」
気血や津液など、体を養う栄養が足りずに痛みが生じるタイプです。
虚弱体質、病後、加齢による消耗などが背景にあります。
【痛みの特徴】
- 鈍く持続的な痛み
- 温めると楽になる
- 休息で軽くなる
- 疲労や食欲不振などの「虚」の症状を伴う
「痺症(ひしょう)」とは!(実証)


中医学では、関節や筋肉の痛み・しびれ・重だるさを総称して痺症(ひしょう)と呼びます。
「風・寒・湿・熱」といった外からの邪気(外邪)が体に侵入して、経絡を塞ぐことで起こるとされます。
中医学の古典「黄帝内経素問・痺論」では、
「風寒湿三気雑至、合而為痺」
風・寒・湿という三つの邪気が重なって体に侵入すると、これが原因で“痺(しびれ・関節や筋肉の痛み)”が起こる。
とあり、外邪が体に侵入して気血が通じなくなることが基本とされています。
つまり、痺症の基本は風・寒・湿などの外邪によるものですが、長引くことで体の正気(抵抗力)が弱まり、虚証(きょしょう)へと転じていく場合もあります。
● 行痺(こうひ)=風痺
| 原因 | 風邪(ふうじゃ)の侵入 |
|---|---|
| 特徴 | 痛みがあちこち移動する(遊走性)/上半身に起こりやすい(風は陽邪のため)/カゼ症状(悪寒・発熱・関節痛など)を伴うことも/動かしにくく、多発的に痛む カゼで関節痛が起こるのはこのせい |
| 代表処方 | 疎経活血湯、独活葛根湯湯など |
| 養生のポイント | 風を通さない服装を心がける/免疫を落とさないように休息と栄養をとる |
● 痛痺(つうひ)=寒痺
| 原因 | 寒邪(かんじゃ)の侵入 |
|---|---|
| 特徴 | 強い痛み、刺すような痛み/冷えると悪化、温めると緩和/痛む場所が決まっている(固定痛) |
| 代表処方 | 桂枝加朮附湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯など |
| 養生のポイント | 防寒対策をしっかり行う/湯船にゆっくり浸かって体を温める(入浴後冷やさない) |
● 着痺(ちゃくひ)=湿痺
| 原因 | 湿邪(しつじゃ)の侵入 |
|---|---|
| 特徴 | 関節が重く痛む/梅雨時期や湿気の多い環境で悪化/痛みが固定し、慢性化しやすい/筋肉の動きが悪くなる |
| 代表処方 | 薏苡仁湯、五積散など |
| 養生のポイント | 同じ姿勢で長時間いない/除湿を心がける/軽いストレッチや利水の食材(ハトムギ・小豆など)を取り入れる |
● 熱痺(ねつひ)
| 原因 | 風・寒・湿の邪が長引いて熱化したもの、または内熱のある人に起こりやすい |
|---|---|
| 特徴 | 患部が赤く腫れる、熱をもつ/発熱や口渇、乾燥を伴う/尿が濃い、関節が熱っぽい |
| 代表処方 | 越婢加朮湯、白虎湯など |
| 養生のポイント | 炎症時には患部を冷やす/安静を保ち、無理な動きを避ける |
● 湿熱痺(しつねつひ)
| 原因 | 湿邪の停滞が長引いて熱を帯びた状態 |
|---|---|
| 特徴 | 関節が腫れて熱をもち、重だるい/尿が濃い、口がねばつく/長引くと関節が変形することも |
| 代表処方 | 二妙散(黄柏+蒼朮)、龍胆瀉肝湯など |
| 養生のポイント | 夏野菜や苦味のある食材で熱と湿を去る/脂っこいものを控える |
虚証の痛み


これに対して、外邪による実証の痛みとは異なり、虚証の痛みは体の内側の力気・血・精といった「体に必要なもの」の不足によって起こります。
十分な気血が巡らず、関節や筋肉を栄養できないために痛みが生じる痛みで、中医学では不栄則痛と呼びます。
また、もともとは風・寒・湿などの外邪によって起こった痺症が、長引くうちに体の正気が消耗し、虚証へと転じていく場合もあります。
このように、虚証の痛みには「体を養う力が不足して起こるもの」と「実証が慢性化して虚に変わるもの」の両方が存在します。
● 気血両虚(きけつりょうきょ)
| 原因 | 気血の不足で経絡を栄養できない |
|---|---|
| 特徴 | 関節がだるく痛む/疲労で悪化し、休むと軽快/めまい、息切れ、食欲不振などを伴う |
| 代表処方 | 八珍湯、十全大補湯など |
| 養生のポイント | 休息を多めに取る/消化の良い食事を心がける/睡眠時間をしっかり確保する(最重要) |
● 肝腎両虚(かんじんりょうきょ)
| 原因 | 肝は筋を、腎は骨をつかさどるため、加齢や慢性病で肝腎が衰えると筋骨が弱り痛む |
|---|---|
| 特徴 | 筋肉や関節が萎縮し、弱々しく痛む/慢性・高齢者に多い |
| 代表処方 | 独活寄生丸、牛車腎気丸など |
| 養生のポイント | 適度に足腰を鍛える(無理はしない)/目の酷使を避ける/夜更かしを控える |
瘀血と痰湿
瘀血や痰湿といった体内に滞った病理産物によっても、痛みやしびれが生じることがあります。
これは「不通則痛(通じなければ痛む)」の原則に当てはまります。
特に、運動不足や飲食の不摂生、長時間の同じ姿勢などの生活習慣が原因となりやすく、慢性的に続く痛みやしびれとして現れることが多いです。
● 瘀血(おけつ)
| 原因 | 血(けつ)の滞り 外傷(後遺症) |
|---|---|
| 特徴 | 固定痛、夜間に悪化、圧痛/皮膚が暗く、ザラザラした“鮫肌”のようになる |
| 代表処方 | 桂枝茯苓丸、通導散など |
| 養生のポイント | 適度な運動を心がける/ストレスをためない/体を冷やさない |
● 痰湿(たんしつ)
| 原因 | 飲食の不摂生、水分代謝の滞りによる痰湿(不要な体液)の停滞 |
|---|---|
| 特徴 | 四肢が重だるい/頭が重い・ボーッとする |
| 代表処方 | 二陳湯、二朮湯など |
| 養生のポイント | 暴飲暴食を避ける/夜遅くの食事を控える/消化の良い温かいものをとる |
まとめ


中医学では、【痛み=特定の漢方薬】とは考えず、「痛みの質」と「体質」を見極めることが大切とします。
タイプに合わない漢方薬を服用すると逆効果になることもあるので注意しましょう。
今回の内容を簡単にまとめると
痛みには、「滞りによるもの(不通)」と「不足によるもの(不栄)」があり、さらに風・寒・湿・熱・虚・瘀血など、さまざまな要因が関わる
一時的に抑えるのではなく、その「原因」を探ることが、真のケアにつながります。












