
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
Xやインスタグラムなどの中医学・漢方アカウントを見ていると、よく「養生」という言葉が出てきますよね。
もちろん私自身もよく使います。
でも、いざ「養生の意味って?」と聞かれると、なんとなく理解していても、言語化が難しいと感じる方は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、みなさんの素朴な疑問「養生の意味ってなんだっけ?」をテーマにを深堀していきます。
- 養生で迷っている
- 体調が悪い
- 睡眠よりも食事を優先している
養生とは?


「養生する」とは、 健康を保つために心身を大切にし、生活を整えること を意味します。
実際に「養生」を辞書で調べると、デジタル大辞泉には次のように記されています。
- 生活に留意して健康の増進を図ること。摂生せっせい。「酒やタバコをひかえ、つね日頃から養生している」
- 病気の回復につとめること。保養。「転地して養生する」
- 打ち込んだコンクリートやモルタルが十分に硬化するように、低温・乾燥・衝撃などから保護する作業。
- 家具の運搬や塗装作業などの際に、運搬物や周囲の汚損を防ぐために布や板などで保護すること。「養生シート」
デジタル大辞泉より引用
このうち、中医学・漢方で扱う「養生」は、①と②のような生活を整え、心身を良い状態に保つための実践 を指します。
つまり養生とは、 日々の暮らしの中で体を守り、病気を予防し、必要な時には回復を助けるための知恵なのです。
健康維持・回復の意味
養生には、次のような具体的な行動が含まれます。
- 暴飲暴食を避け、消化に負担をかけない
- 十分な休息を取り、疲労を回復させる
- 喫煙・過度の飲酒など、体に負担となる習慣を控える
- 病気やケガの際には、回復に適した生活環境を整える
「養生」という言葉は、 日常生活の中で心と体を整えること「生活習慣を整える」「環境を変えて休む」などの意味で使われます。
中医学では、養生は 日々の生活で、体への負担を減らし、必要なエネルギー(気・血・津液)をほどよく補い、めぐらせるための方法として考えられます。
これによって体のバランスを保ち、病気になる前の段階(未病)で不調を防ぐことを目指します。
さらに中医学では、健康の原則として「中庸」が大切にされています。過度なダイエットのように体を抑え込みすぎるのも、「良いものだから」と特定の食品に偏りすぎるのも、どちらも望ましい養生ではありません。
養生の基本はシンプルで足りなければ補い、余っていれば外に出す。
睡眠や食事でエネルギーを満たし、運動で余分なものや滞りを流す。
この「ほどよい調整」が、中庸の考え方であり、中医学の養生そのものです。
養生の三大基本


中医学的にみても、現代医学的にみても、生活の土台としてとても大切なのが次の3つです。
- 早く寝る
- 食べ過ぎない
- 適度に動く
「多く寝る=良い」とは限らない
睡眠時間をしっかり確保することも大切ですが、中医学では 「早く寝る」 ことも重視されます。
昼夜逆転でたくさん寝ても、体のリズムは整いにくいです。
人間は太陽とともに動き、暗くなったら休むという「陰陽のリズム」が健康に直結しています。
また、過眠というのも陰陽のリズムが乱れます。
実際、私が日々ご相談を受けている中でも、夜間に働いている方は 生理が乱れやすい・イライラしやすい・体が火照る といった症状が多いように感じます。
これは、本来「陰を補う時間」である夜間にしっかり休めないため、相対的に陽が強まりすぎてしまっている状態(陰虚)と考えられます。
看護師さんや介護士さんなど。
ただ、中医学的にはこうしたリズムの乱れが体に影響するという事実があるため、その分、日中に陰を補う養生を意識的に行うことが大切だと考えています。
早寝のメリット
東洋医学の子午流注の考えでは、23時(子の刻)は胆と肝の働きが高まり、身体のデトックスが最も進む時間帯 とされます。
この時間にしっかり眠れていないと、心身の新陳代謝がうまく回らず、翌日の疲れや不調につながりやすくなります。
【23時までに寝るメリット】
- 成長ホルモンが分泌される
- 自律神経が整う
- 肌の調子が良くなる
- 疲労回復がスムーズになる
不調がある人ほど、まずは「寝る時間」を見直すべきなのです。
食べ過ぎない
食養生というと、「何を食べるか」に気を取られがちですが、実は一番大切なのが 「食べ過ぎない」 こと。
現代は「飢餓リスク」よりも、過食によるリスクのほうが圧倒的に多い 時代です。


甘い飲料、菓子パン、ファストフード、簡易なホットスナック……どれも美味しいですが、糖質に偏りやすく、栄養が不足しがち。
そのため、
- 胃腸の疲れ
- 肥満
- むくみ
- だるさ
- 肌荒れ
といった不調が日常化しています。
「食べないの養生」という考え方もあります。
体や胃腸が疲れているときには、あえて「食べない」ことが養生になります。
思い出してみてください。
カゼで体調不良のとき、寝不足でぐったりしているとき、そんな状態で焼き肉を美味しく食べられるでしょうか?
胃腸に未消化物が残っていると、睡眠の質はどうしても低下してしまいます。
つまり、必要以上に食べないことそのものが養生になる場合もあるのです。
適度に動く


「健康日本21(第三次)」では、1日の目標歩数が以下のように設定されています。
20〜64歳:男女とも 8,000歩
65歳以上:男女とも 6,000歩
しかし実際は、
令和元年度の全国平均:6,278歩
20〜64歳:男性7,864歩/女性6,685歩
65歳以上:男性5,396歩/女性4,656歩
どの年代も目標値に届いていません。
これは、デスクワークの増加、車や電車での移動、コロナ禍以降のテレワーク普及などが影響しています。
なぜ運動が養生になるのか?
【運動のメリット】
- うつ・不安の改善
- 睡眠の質が向上
- 食欲が整う
- 代謝が上がる
- 冷えの改善(筋肉は熱産生の要因)
中医学でも、「動けば気が巡る」=運動は気血の流れを改善し、生命力を高めると考えます。
気も血も水も、“あるだけ” では機能しません。
正しく巡って、はじめてその働きが生きる。
しかし、現代人はこの「めぐらす」ことが苦手になっています。
便利で豊かな生活によって、補うこと(食べる・休む)はたやすくなった一方で、
体を動かす機会は歴史上まれに見るほど減りました。
かつての生活は、ほとんどが肉体労働。
それに比べ、現代は長時間のデスクワークや座りっぱなしの生活が中心です。
実は、学術的にも
自然人類学の観点から見ると、ホモ・サピエンスは30万年前の登場以来、生物としてはほとんど進化していません。
と言われています。


これは生物人類学でいう 「進化的ミスマッチ(evolutionary mismatch)」 という概念で、身体が古い時代の環境に合わせた設計のままなのに、生活環境だけが急激に変わってしまったということを指します。
だからこそ、現代では運動はもはや「したほうがよい」ではなく「すべき養生」といえます。
体を動かすことは、古い身体を現代の環境に“適応させるための調整”でもあります。
生命力をめぐらせるための、もっとも確実で、もっとも効果のある方法なのです。
まとめ


改めてまとめると、養生とは「生きる力を養うために、足りないものは補い、過剰なものを減らし、日々の生活を整えること」。
そのために重要なのは、この3つ。
- 早く寝る
- 食べ過ぎない
- 適度に動く
どれも特別なことではないですよね?
生活の中の「当たり前」を整えるだけでも、体は確実に変わっていきます。
「養生の意味を知りたい」「どこから始めればいい?」という方は、まずはこの三大基本を意識してみてくださいね。












