
ただ『痩せ薬』みたいな売り方、CMは気になるね!
こんにちは、漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
テレビCMで「お腹の脂肪がスッキリする」といった映像を見たことがある方も多いと思います。あのCMで使われているのが、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)という漢方薬です。
あのイメージから、つい「痩せ薬」と思われがちですが、実際にはそうではありません。
体質に合わないと、副作用が出ることもあります。
この記事では、防風通聖散の特徴や正しい使い方を、漢方薬剤師の視点から分かりやすく解説します。
防風通聖散は、以下の商品名でも販売されています。
- ナイシトール
- コッコアポA/EX
- ビスラットゴールドEXα
ドラッグストアでよく見かけるタイプの漢方薬です。
- ダイエットに漢方薬を使いたい
- 体重が増えやすくなってきた
- 防風通聖散を飲んでいるけど効かない
👇忙しい人はショート動画で確認してね。
動画が表示されない場合はこちらからご覧ください:https://www.youtube.com/watch?v=iTPGVlnf3UU
防風通聖散ってどんな漢方薬??


防風通聖散は、もともと「風邪薬の一種」として作られた処方です。
中国・金元時代の名医、劉完素(りゅう かんそ)が著した『黄帝素問宣明論方』に収載された古典処方で、以下のような症状に用いられてきました。
- 発熱・悪寒
- 熱毒(体にこもる熱)
- 便秘
- 水分代謝の低下
- 風邪が深く入り、内臓の症状まで出ている時
- もともと体に熱がこもりやすい人の風邪
- 化膿性の皮膚症状
つまり、防風通聖散は「熱を取り、便通や代謝を良くする処方」であり、痩せ薬として作られたわけではありません。
構成生薬
| 当帰 | 血を補い、血行を良くする。冷えや貧血、女性の体調不良に用いられる。 |
|---|---|
| 芍薬 | 筋肉の緊張をほぐし、痛みを和らげる。血を補う働きもあり、生理痛などに用いる。 |
| 川芎 | 血の巡りを良くし、頭痛やめまい、月経痛の改善に使用される。 |
| 山梔子 | 熱を冷まし、炎症を抑える作用がある。体内の余分な熱を下げる。 |
| 連翹 | 熱を取り、炎症や腫れを鎮める。解毒作用がある。 |
| 薄荷 | 清熱・解毒作用があり、風邪やのどの痛みに使われる。爽快感を与える。 |
| 生姜 | 体を温め、胃腸の働きを助ける。寒気や吐き気の改善に使用される。 |
| 荊芥 | 体表の風邪症状を和らげる。かゆみや発疹の改善にも使われる。 |
| 防風 | 風邪による症状や関節痛の改善に使用される。免疫を整える働きも。 |
| 麻黄 | 発汗・利尿・気管支拡張作用があり、風邪の初期や水分代謝の改善に用いられる。 |
| 大黄 | 強い通便作用があり、便秘や体内の老廃物排出に使われる。 |
| 乾燥硫酸ナトリウム | 腸を刺激して便通を促す。水分代謝の調整にも用いられる。 |
| 白朮 | 胃腸を丈夫にし、水分代謝を整える。下痢やむくみの改善に使用される。 |
| 桔梗 | のどの炎症を鎮め、去痰作用がある。呼吸器の症状に使われる。 |
| 黄芩 | 体内の余分な熱を冷まし、炎症や下痢、湿疹に用いられる。 |
| 甘草 | 薬の調和役として働き、炎症や咳の改善にも使用される。胃腸保護作用も。 |
| 石膏 | 強力な清熱作用があり、高熱や炎症、口の渇きの改善に使用される。 |
| 滑石 | 利尿作用があり、尿路や水分代謝の改善に使われる。 |
防風通聖散は、本来「体に熱をこもらせやすい人が、風邪(外邪)に侵されたとき」に使う処方です。
そのため 体表の風邪を発散させる生薬(解表) と、体内の余分な熱・老廃物を排出する生薬(攻裏) が同時に入っているのが特徴です。
外を抜く防風・荊芥・麻黄・薄荷と、内側の熱を冷まして通便させる大黄・芒硝・石膏・黄芩が中心となり、「表裏同時」 に余分なものを一気に外へ追い出す構成になっています。
- 補うよりも排出させる生薬が多い
→ 大黄や麻黄、乾燥硫酸ナトリウムなど、便・尿・汗で不要なものを出す作用が強い。虚弱体質や疲れやすい人には向かない。 - 下剤や発汗作用の生薬が多い
→ 長期服用には向かず、体力や胃腸がしっかりした人向き。体内の余分な毒素や老廃物の排出に使用される。 - 温める生薬もあるが、強烈に冷やす生薬が多い
→ 生姜や防風などで部分的に温める作用はあるが、石膏や大黄など強力な清熱作用が主体。冷えが強い人は注意が必要。
なぜ『痩せ薬』のような売り方をしているの??


日本でこの処方が注目されたのは、明治〜昭和に活躍した森道伯先生の流派「一貫堂」がきっかけです。
一貫堂では「臓毒証(ぞうどくしょう)」という体質の改善に、防風通聖散を重用しました。
その結果、
「防風通聖散=肥満に効く薬」
というイメージだけが一人歩きしてしまったのです。
『臓毒証(ぞうどくしょう)』とは?


臓毒とは風毒・食毒・水毒・梅毒の四毒
現代の防風通聖散は、このうち「食毒」「水毒」を中心に効能効果が設定されています。
風毒(ふうどく)
中医学、漢方の世界で「風(ふう)」の定義は難しいのですが、ここで風邪(ふうじゃ)は感染症のイメージです。
食毒(しょくどく)
食毒とは、急性の食中毒ではありません。
日々の食生活の乱れによる「慢性的な負担」を指します。
- 甘い物のとりすぎ
- 脂っこい物
- 肉食中心
- 野菜不足
大正〜昭和の森道伯先生の時代は、都市部で食生活が豊かになり、脂っこい料理や甘いものが増えたことで、今でいう生活習慣病のような症状が多く見られました。
そのような体質の人に対して、防風通聖散はとてもよく効いたとされています。
同じように、私たちも平和で食べ物に困らない時代を生きています。
そのため、当時の人と似た体質になりやすく、防風通聖散は現代の私たちの不調にも合いやすい漢方と言えます。
梅毒(ばいどく)
皮膚に赤い湿疹ができるような性病の一種。
抗生剤が発達した現代では梅毒に防風通聖散を使うことはありませんが、当時は利用されていたようです。
水毒(すいどく)=痰湿(たんしつ)
中医学では、水毒は痰湿(たんしつ)とも呼ばれ、飲食の不摂生や運動不足で体内に不要な水分がたまった状態を指します。脂っこい食事・甘いもの・冷たい飲み物は特に痰湿を作り、胃腸の働きを弱めます。
防風通聖散には水分代謝を促す生薬が含まれており、食毒と合わさって水毒がある人には効果が期待できます。
体内に痰湿がたまると、むくみ・だるさ・便のゆるさ・胃もたれ・皮下脂肪が落ちにくいなどの症状が出やすくなります。
- 冷たい飲み物の取りすぎ
- 脂っこい・味の濃い食事
- 甘いものの間食が多い
- 運動不足による代謝低下
防風通聖散が合うタイプ


体力充実して,腹部に皮下脂肪が多く,便秘がちなものの次の諸症:高血圧や肥満に伴う動悸・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘,蓄膿症(副鼻腔炎),湿疹・皮膚炎,ふきでもの(にきび),肥満症
防風通聖散が「臓毒証」に使われる漢方薬であることを解説してきました。
では、具体的にどのようなタイプが向いているのでしょうか?
『防風通聖散を飲んでも痩せません!』
漢方家がここ数年ウンザリするほど聞いたセリフです😅
防風通聖散が効くタイプは
『俺(私)3食しっかり食べるんだよね〜!
しかも、た・べ・す・ぎ✩
体?強いよ〜
汗はかかないし、おしっこもでない
なんなら💩も出ない!ワッハッハー』ってタイプです👍
— 🐢漢方薬剤師 玄🐍 (@gen_kanpo) January 20, 2020


防風通聖散は本来、「食毒」に対応する漢方薬で、食生活が乱れて過食傾向にある人、特に体力があり、便・尿・汗が出にくく余分なものをため込みやすい人に使われてきました。
中年以降の過食による生活習慣病の予防にも用いられ、石膏や黄芩など胃の熱を冷ます生薬が含まれるため、食べすぎを抑える作用も期待できます。
体格がしっかりした「筋肉型」「脂肪型」の人、つまり体力があって排出する力もある人に最適で、昔の肉体労働者や上流階級の方々が典型的な使用例です。
臓毒証の病気(神経痛・腎臓病・糖尿病・痔・動脈硬化・脳溢血など)の予防・治療にも用いられました。
ただし、現代ではこうした条件に合致する人は少なく、体が弱い人や冷えが強い人には向きません。
むやみに飲んでも効果は出にくく、逆に体力を消耗する可能性があります。
あくまで「体が強く、溜め込みやすく、食べすぎがちな人」に効果的な処方であり、生活習慣や体質に合わせて使うことが大切です。
防風通聖散が合わないタイプ


では、合わないタイプはどのような人でしょう?
虚弱体質


防風通聖散は、「(熱・水)排出する」の生薬が「補う生薬」より多い処方 です。
そのため、虚弱体質の人とは相性がよくありません。
- 疲れやすい
- 産後・病後の回復時
- 胃腸が弱い
- 不眠・不安感がある
特に胃腸が弱い人が服用する際は注意しましょう。
強い通便作用でさらに弱ってしまいます。
冷えが強い人


防風通聖散は清熱薬を多く含むため、体を冷やしやすい特徴があります。
そのため、冷えが強いタイプには向きません。
結局のところ痩せるの?


次のようなタイプには、一定の体重減少が期待できます。
- 便秘しやすい
- むくみがある
- 汗をかきにくい
- 過食気味
ただし、防風通聖散は基礎代謝を上げる薬ではないため、痩せる効果は一時的だと考えられます。
基礎代謝を上げるには、筋肉量を増やすことや冷えの改善が大切です。
また、いくら防風通聖散で「臓毒(水毒・食毒)」を減らしても、食生活が乱れたままでは効果は続きません。
長期的なダイエットには、運動と食事の見直しが必須です。
個人的には、防風通聖散単独でのダイエット相談はあまりおすすめしていません。
まとめ


防風通聖散は単なるやせ薬ではありません!
『臓毒証』という不要な毒を体にため込んた人のを体質を改善することが出来る現代にフィットした予防の漢方薬です!
ですが体質によっては体調を崩す可能性があります。
簡単にまとめるとは
【本来の使い方】
- 本来は風邪薬の1種
- 臓毒証の体質改善薬
【防風通聖散が合うタイプ】
- 食べすぎる
- 代謝(汗、便、尿)が悪い
- 体が強い
【防風通聖散が合わないタイプ】
- 虚弱体質(特に胃腸)
- 冷えが強い












