太田胃散の生薬成分を中医学で読み解く|桂皮・茴香・丁子などの働きを専門家が解説

みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
市販胃腸薬の中でも古くから親しまれている「太田胃散」。
私の薬局に来る人の新規患者のアンケートの服用薬の欄でもよく目にします。
実はこの製品には、7種類の生薬がバランスよく配合されています。
今回は、漢方薬剤師の視点から、これらの生薬を中医学的に読み解く記事をまとめました。
胃薬としての「太田胃散」というより、配合されている生薬そのものの一般的な働きにフォーカスした内容です。
胃もたれ・食べ過ぎ・ストレス胃など、幅広く悩む方が多い「胃の不調」
こうした背景もふまえながら、1つひとつの生薬がどのように役立っているのかを見ていきましょう。
- 胃腸の調子が悪い
- 太田胃散を常用している
- 生薬に興味がある
太田胃散に配合されている7つの生薬ってどんなもの?


太田胃散に含まれる主な生薬は以下の7種類です。
具体的には以下の通り!
- 桂皮(ケイヒ)
- 茴香(ウイキョウ)
- 肉豆蒄(ニクズク)
- 丁字(チョウジ)
- 陳皮(チンピ)
- ゲンチアナ
- 苦木(ニガキ)
桂皮(ケイヒ)|身体を温め、めぐりを整える
桂皮はシナモンの樹皮。
その特徴は、身体を温めながら巡りを改善する作用があることです。
中医学的には「温中散寒(おんちゅうさんかん)」や「散寒止痛(さんかんしつう)」の働きがあります。
これは、体の内側をじんわり温めることで、冷えによってこわばった胃腸の動きを助け、重さや痛みなどの不快感をやわらげる働きです。
茴香(ういきょう)|冷えによる胃腸の停滞をサポート
茴香は「フェンネル」としても有名で、スパイスやハーブとしてお馴染みです。
生薬の正式名称は小茴香(しょうういきょう)といいます。
小茴香に対して大茴香(だいういきょう)もあって、コチラは「八角(はっかく)」という名前で有名です。
効能は小茴香と似ていますが、大茴香は主に香辛料として使われます。
薬効は「小茴香>大茴香」と言われています。
温めて巡らせる力が強く、胃腸の冷えによる停滞や膨満感に用いられます。
ニクズク|気を温め動かす、胃腸の不調に!
肉料理のスパイスで有名なナツメグの種子がニクズク。
「温中行気」といって温めて胃腸を動かし、気の巡りを促す生薬。
生薬の効能に出てくる「中」という文字は中焦(≒胃腸)を表すことが多いです。
食欲不振、胃の冷え、消化機能の弱まりなどによく用いられます。
香りの力で気の流れを整えるため、膨満感にも相性が良い生薬です。
丁字(ちょうじ)|胃を温め、巡りを整える「香り高い理気薬」
ハーブでもう有名なクローブのつぼみを乾燥させたもの。
香りが強く、
胃の働きを温めながら停滞を動かす「温中理気」の代表的な生薬。
気逆(気が上に突き上げる)を整える働きがあり、胃のムカつきなどに使われることもあります。
陳皮(ちんぴ)|気の巡りと消化を助ける定番生薬
みかんの皮を乾燥させた生薬で、数多くの漢方処方に使われます。
気の巡りを整え、胃腸の働きを高める「理気健脾薬」の代表格。
燥湿化痰という作用があり体の不要な体液「痰湿(たんしつ)」に対してもよく使われる生薬です。
胃腸を管轄する五臓の脾の性質は「土喜温燥」=土(五行で脾が属する)は温かいと乾燥を好む


ストレスによる胃の張り、食べ過ぎによる重だるさなど、日常的な胃の不快感に幅広く使われる万能タイプです。
ゲンチアナ|苦みで胃腸の働きを引き出す「苦味健胃薬」
ゲンチアナはリンドウ科の植物で、強い苦味が特徴。
中医学では苦味は清熱やいらない物を排泄する味とされます。
苦味の刺激によって胃腸の動きを促し、消化機能を整える働きがあり、現代でも「苦味健胃薬」として薬学的に活用されています。
中医学で用いられる「竜胆(りゅうたん)」と同じ属に分類される生薬です。
基原植物や臨床での使われ方は異なりますが、強い苦味を持ち熱を清めるという点では、中医学の竜胆に通じる性質を持つ生薬と考えられています。
ニガキ|名前の通りの苦味で胃腸機能をサポート
ニガキは、その名の通り非常に強い苦みを持つ生薬です。
ゲンチアナと同じ苦味の刺激で胃液分泌を促し、消化力を引き出す「苦味健胃薬」
食欲が出ない人のケアに用いられることが多い生薬です。
太田胃散に含まれる生薬を「働きの方向性」で読み解く


太田胃散に配合されている生薬は、漢方・中医学の視点で見ると、「どのように胃腸へ働きかけるか」という作用の方向性によって整理することができます。
ここでは、代表的な三つの働きに分けて見ていきます。
なお、生薬は単一の作用だけを持つわけではないため、
複数のグループにまたがって分類しています。
① 温めて胃腸の土台を支える生薬
冷えは、胃腸の動きを鈍らせる大きな要因のひとつです。
中医学では、胃腸を温めることで消化吸収の力を引き出すと考えられています。
- 桂皮(ケイヒ)
- 丁字(チョウジ)
- 肉豆蔲(ニクズク)
- 茴香(ウイキョウ)
これらの生薬は、「まずは胃腸の好きな温めて、動ける土台をつくる」
という役割を担ってそうです。
② 気の巡りを整え、胃腸を動かす生薬
食後の張りや、つかえ感の背景には、
気の巡りの滞りが関係していると考えられることがあります。
- 茴香(ウイキョウ)
- 陳皮(チンピ)
- 丁字(チョウジ)
このグループは、「停滞した気を動かし、胃腸の流れを整える」
役割を担っています。香りを持つ生薬が多いのも特徴です。
③ 苦味によって胃腸の働きを呼び起こす生薬
中医学では、苦味には「熱を冷ます、下に下ろす」性質があるとされます。健胃薬における苦味生薬は、胃腸機能に刺激を与える役割を担います。
- ゲンチアナ
- ニガキ
これらは、香りや温性生薬と組み合わさることで、
過度な寒性を和らげつつ用いられていそうです。
まとめ|香りと苦味のバランスで“動ける胃”をサポート


太田胃散に配合されている生薬は、
大きく分けて「温めて胃腸の土台を支える」「香りで巡りを整える生薬」と「苦味で胃腸機能を高める生薬」の3系統に分類できます。
| 温めて胃腸の土台を支える生薬 | 桂皮(ケイヒ)/丁字(チョウジ)/肉豆蔲(ニクズク)/茴香(ウイキョウ) |
|---|---|
| 気の巡りを整え、胃腸を動かす生薬 | 茴香(ウイキョウ)/陳皮(チンピ)/丁字(チョウジ) |
| 苦味によって胃腸を刺激する生薬 | ゲンチアナ/ニガキ |
温め=胃腸の土台を支える、香り=気の巡り改善、苦味=胃腸の動きの促進。
この三っつが組み合わさることで、日常的な胃の停滞感にアプローチできる構成になっています。
いずれも古くから健胃目的で用いられてきた生薬であり、それぞれに明確な薬性と役割があります。
本記事は、生薬の一般的な薬性・用途を紹介する学術的な内容であり、特定製品の効果効能を説明するものではありません。











