
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です!
ふと、物悲しくなることってありますよね。
ストレスの多い現代では、メンタルに関する相談を受けることが本当に増えています。
イライラしやすいタイプの人もいれば、そんなイライラに振り回されて疲れてしまう人もいます。
ちょっとしたことで落ち込んだり、ヒステリックになってしまったりなど。
特に、女性はホルモンバランスの影響を受けやすく、子どもは心も体もまだ発達途中のため、心が不安定になりやすいものです。
そんな時に活用できる漢方薬が、
「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)」です。
今回は、不安感やヒステリックな症状に使われる漢方薬「甘麦大棗湯」について解説していきます。
- 不安感を感じる
- 急に涙が出てくる
- 神経過敏
甘麦大棗湯ってどんな漢方薬?


簡単に説明すると
臓躁(ぞうそう)」という心の不安定な状態を治す処方です。
臓躁(ぞうそう)とは?
臓躁とは、主に女性に多いとされる精神的な不調を指します。
心配事や悩み事が続き、心が疲れきってしまった状態。
中医学では、長い悩みなどにさらされた結果、「心陰が傷つき、精神を安定させることができない、陰を失うことで肝気が伸びやかにならない」ことで、精神が不安定になり、涙が出たり、情緒がコントロールできなくなると考えます。
【五臓との関係:心と肝のアンバランス】
中医学でいう「五臓」のうち、
- 心は精神活動の中心(神志)を司る君主の官
- 肝は情緒や感情をコントロールする将軍の官
心が弱ると不安や動悸が出やすく、肝が失調するとイライラや情緒の起伏が激しくなります。
この二つ臓の陰陽のバランスを崩れると、「臓躁」が現れるとされます。
※臓躁については諸説あり
現代的に言えば、ヒステリー、ノイローゼ、不安発作などに近い状態です。
もっと具体的にいえば、
「急に不安に襲われて涙が出てくる」
「理由もなく悲しくなってしまう」
そんなときに用いられることが多い処方です。
出典の『金匱要略・婦人雑病篇』には、次のように記されています。
婦人臓躁(ヒステリー)あり,泣きたくなったり笑ったりを繰り返し、まるで神霊に憑かれたように見え、しばしばあくびをする
※超意訳
「神霊に憑かれたように見え」と表現する通り、発作的に来る精神不安などに有効なことがわかります。
構成生薬
| 生薬名 | 中医学的な効能効果 |
|---|---|
| 小麦(しょうばく) | 養肝補心・除煩安神 心神を養い、精神の興奮を鎮める。 |
| 甘草(かんぞう) | 補養心気・和中緩急 気を補い、他薬の薬性を調和させる。 |
| 大棗(たいそう) | 益気和中・養血安神 肝気を緩めて精神を安定させる。 |
甘麦大棗湯の構成は、非常にシンプルです。
小麦・甘草・大棗の3種類。
どれも食品としても使われる穏やかな生薬で、「心を養い、気持ちを落ち着かせる」という共通点があります。
甘麦大棗湯のメイン生薬は小麦。
一回に大量に使います。
これら3つの甘味をもつ生薬が組み合わさることで、「養心安神」=心を養い、神(精神)を落ち着かせる働きを強めています。
どれも穏やかで中医学的な副作用が少なく(甘草の量は注意※後述)、精神的な緊張や不安をやさしく鎮めてくれる処方です。
それでも、体質が合えば切れ味の良い不思議な(?)処方。
よく使う症状


体力中等度以下で,神経が過敏で,驚きやすく,ときにあくびが出るものの次の諸症:不眠症、小児の夜泣き、ひきつけ
薬局製剤指針より引用
不眠・神経過敏
主に使われる症状はコチラ。
元々、心が疲れやすい人に向いており、神経が過敏になって眠れない、些細なことで驚いたり泣いたりしてしまうようなときに用いられます。
子どもに甘麦大棗湯が使われる理由
中医学では、子どもは「稚陰稚陽(ちいんちよう)」といい、陰も陽もまだ十分に成熟していない存在と考えます。
すぐに陰陽のバランスが乱れ、身体だけでなく、心(精神面)も未発達な状態です。
感情をうまくコントロールする力が弱く、悲しい・怖い・不安などを言葉ではなく「感情や情緒」で表現してしまうことが多いのです。
たとえば、
- 理由もなく泣き出す
- 夜泣きや不安で眠れない
- ちょっとしたことでヒステリックに泣く
こうした状態は、中医学的に見ると「心」と「肝」のバランスが未熟なために起こる現象。
大人の「臓躁(ぞうそう)」と似ていますが、原因が“未成熟”による点が異なります。
そのため、甘麦大棗湯のように心をなだめ、情緒を安定させる穏やかな処方が適しています。
現代の子どもは、勉強・習い事・人間関係など、見えないストレスを多く抱えています。
のびのびしているように見えても、心の中では不安や緊張を感じていることも少なくありません。
注意すべに点


甘草の量に注意
甘麦大棗湯は甘草を5g(薬局製剤の煎じ薬)含む処方で、比較的多めです。
長期連用や多剤併用により、偽アルドステロン症(むくみ、血圧上昇、筋力低下など)を起こすリスクがあります。
【甘草を多く含む代表的な処方】
処方名 含有量(目安)
- 芍薬甘草湯 約6g
- 甘麦大棗湯 約5g
- 桔梗湯など 約3g
- 炙甘草湯 約3g
甘草は漢方薬の約7割に含まれる生薬です。
他の甘草含有処方との併用に注意しましょう。
まとめ

甘麦大棗湯は「穏やかに心をなだめる」漢方薬です。
強い鎮静剤のまでの即効性はありませんが、ストレスや不安、情緒の波に悩むときに、寄り添うように効きます。
「涙もろくなった」「気分が安定しない」
そんなとき、体質に合えばこの処方がぴったりです。
甘麦大棗湯を簡単にまとめると
心が疲れ、感情が不安定になったときに優しく支えてくれる処方。
【よく使う症状】
- 臓躁(ヒステリー、不安発作、神経過敏)
- 小児の夜泣き・ひきつけ
【注意すべき点】
- 甘草量が多いので長期服用、併用などに注意












