麦門冬湯を飲んだんだけどあまり効かないんだ。
みなさん、こんにちは!
漢方薬剤師の玄(@gen_kanpo)です。
乾燥が強くなる秋から冬にかけては咳のご相談が多くなります。
最近ではウイルス性の感冒の後遺症により乾燥する咳の相談も増えました。
このような乾燥や虚の咳の症状に活躍するのが麦門冬湯や滋陰降火湯のような肺を「潤す」漢方薬。
ですが、これらの処方に対して間違った使い方も目にします。(特に麦門冬湯)
潤す漢方薬が逆効果的な咳。それは「痰湿」が原因の咳です。
そこで今回は「乾燥(肺燥)の咳と痰湿の咳」の違いについて解説してきます。
- 毎年秋から冬に咳がでる
- 乾燥に弱い
- 痰が多い咳が出る
乾燥(肺燥)が原因の咳
何らかの原因で肺の「潤い」が不足したときに出る咳です。
五臓の肺は「潤(潤い)を好み、燥(乾燥)を嫌う」という性質をもつ臓腑。
乾燥が気になる秋から冬にかけてはこのタイプの咳が多くなります。
肺が乾燥する原因にはいくつかのパターンがあります。
- 燥邪が侵入して津液を消耗する
- 熱病などで津液を消耗する
- 陰虚体質
上記のような状態で体に必要な水分(津液)が足りなくなると肺が乾燥し咳に発展します。
症状の特徴
空咳、無痰or少痰、口や喉の乾燥感、舌の苔が少ないor無い、水分補給で症状が緩和するなど
上記のような症状がベースで燥邪、陰虚によって多少変わります。
- (風)燥邪の侵入⇒発熱、悪風(悪寒よりも弱い寒気)
- 陰虚⇒熱感、寝汗、痰に血が混じる
陰虚や津液不足の咳は慢性化しやすいのも特徴です。
感染症の後や高齢者の咳の慢性化している場合は焦らず「潤す」漢方薬で治療していくとよいです。
【乾燥の咳の代表処方】
麦門冬湯
滋陰降火湯
竹葉石膏湯 など
特に麦門冬湯は病院などでもよく出る漢方薬です。
「咳=麦門冬湯」というイメージを持ってる人が多いようですが、乾燥タイプでないと効かないこともあります。
乾燥に対する養生
漢方薬も大事ですが日々の養生も大切になります。
- 加湿器を活用する
- 睡眠不足にならない
- 白きくらげ、豆腐、はちみつなど肺を潤す食養生
「肺は潤(潤い)を好み、燥(乾燥)を嫌う」という性質です。
乾燥する季節は加湿器を使ったり、体を潤す白い食材などを上手に活用しましょう。
体を潤す「陰・津液」は夜間に作られるとされます。
睡眠不足にならないように注意が必要です。
五臓の肺は別名:嬌臓(きょうぞう)
嬌の字は華奢や可愛らしいという意味です。
肺は冷えや熱に弱く敏感で「か弱い臓腑」ということを表しています。
また、肺は華蓋(かがい)とも呼ばれます。
華蓋とは古代中国の皇帝の輿についていた日よけやほこり除け用の大きな傘。
肺は体の一番上部に位置する臓腑で、病邪が一番最初に襲う部分でもあります。
肺は「病邪に襲われやすい、寒暖差・乾燥に弱い華奢な臓」と意識しておきましょう。
肺が敏感になる秋から冬は養生を怠らないようにね。
痰湿が原因の咳
中医学には「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」という言葉があります。
痰湿は大体が食べ過ぎや飲み過ぎで脾胃の調子が落ちることから始まります。
痰湿の咳が起こる流れは
- 飲食の不摂生で胃腸が疲れる
- 脾(≒胃腸)の運化(運搬+変化)が低下し痰湿が生まれる
- 肺に停滞し肺の気を阻害する
症状の特徴
痰が多い咳、痰を出すと症状が緩和する、食欲不振、胸や腹が張って苦しい、悪心、嘔吐、舌の苔がべったり
胃腸の不調や暴飲暴食傾向の人に多い咳です。
【痰湿の咳の代表処方】
二陳湯
半夏厚朴湯
参蘇飲
痰湿が原因の場合は燥湿化痰薬という痰湿を取り除く漢方薬を中心に治療していきます。
このタイプの漢方薬は名前の通り体を「乾燥」させる漢方薬です。
乾燥タイプの咳の人が服用すると悪化する可能性があるので注意しましょう。
また、生痰の源である脾にアプローチする必要もあります。
- 食べ過ぎて消化不良⇒消化を促す漢方薬(平胃散など)
- 脾気虚で運化作用が低下⇒脾気虚の漢方薬(六君子湯など)
症状に応じて上記のような漢方薬を加えても効果的です。
肺は秋に、脾は梅雨、長夏(夏の終わりの長雨時期)に敏感になり母子の関係です。
梅雨から夏にかけて生物、冷たい飲食物を取り過ぎると痰湿が生まれ秋に咳や痰の症状が悪化します。
秋の花粉や後鼻漏が出やすい人もこの痰湿タイプが多いです。
このタイプは「潤す」タイプの漢方薬を使う際は注意が必要。
すでに、痰湿(不要な水)がたまっている状態を悪化させてしまう可能性があります。
痰湿に対する養生
痰湿対策としては胃腸のケアがとても大切です。
具体的には
- 暴飲暴食しない
- 肥甘厚味を避ける
- 適度に運動する
痰湿が作られないように暴飲暴食を避けることが大事です。
ストレスのはけ口が「食べること」になっている人は他のストレス発散方法を探すのも養生です。
避けたい食べ物としては「肥=脂っこい 甘=甘い 厚=味の濃い」
これらは痰湿を生みやすい味なので極力減らせるようにしましょう。
逆にミカンの皮やパクチーなど香りの高い「芳香化湿」と呼ばれる食材はオススメ!
体から不要な湿を取り除いてくれます。
まとめ
今回は乾燥(肺燥)と痰湿の咳について解説していきました。
お互い逆の漢方薬を選択してしまうと悪化する可能性があるので注意しましょう。
簡単にまとめると
【乾燥の咳⇒津液不足】
空咳、無痰or少痰、口や喉の乾燥感、舌の苔が少ないor無い、水分補給で症状が緩和する
【痰湿の咳⇒痰湿が肺の機能を邪魔する】
痰が多い咳、痰を出すと症状が緩和する、食欲不振、胸や腹が張って苦しい、悪心、嘔吐、舌の苔がべったり
胃腸を大事しまーす。